リューンの木葉通り。そこにはぶつくさと不満の声を漏らしながら裸足で歩く少女が一人。
「全く、何であたしが…」
ついてないなぁと思いつつ、賑わう街の道をやや早足で通り過ぎる。空は青空、やや風の強い日だった。
「……?」
ふいに、
「穣子ちゃん。」
風が、強く吹いた。
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「というわけで、みのりんはじゃがいもを買いに街へ放り出されたのだった。」
「どういうわけですか。」
「あぁ、可哀想なみのりん…親父さんの魔の手によって、あんな人の多いところへ独り放り込まれて…あぁ、可哀想だわ、あんまりだわ!!」
「では貴方が出向けばよろしかったのでは
「運命の神には逆らえないものよ。」
ふう、とため息をついて自分の武器を研ぐ。彼女は武器の手入れはこまめにしていた。いくつも磨きあげられた短剣がカウンターの上に並べられている。…あのとき最も得意だと思った短剣は実はそうでもないのかもしれない。
対する衣玖は、ある依頼書を見つめていた。それは自警団から冒険者に出されたものらしく、『この女を捕まえてきたら500sp』というものだった。身なりはローブを纏っているが意外と小ぶり、体が頑丈で魔法を扱うのが得意だとかなんだとか。まぁ、無理だということでカウンターにそっと置いた。
で、穣子はというと。先ほど、親父さんにお使いを頼まれた。ジャンケンした。穣子が負けた。
それで、今に至る。
「…ん、誰か来たわ。」
と、早苗のその言葉が言い終えられると同時に、宿の扉が開かれる。そこには赤い髪をした女性が立っていた。
「よっ、さなっさん!」
「あら、らっこさんじゃない。いらっしゃーい。」
入ってくるとすぐ、ガッと強く互いに握手をする。するとすぐに周囲を見渡し、穣子の姿が見えないけどと尋ねる。今は親父さんにパシられてると説明すると、そっかと言って早苗の座っていたところの隣に腰掛けた。それに続いて早苗も再び座る。
「あの、この人は…?」
「あぁ、そういえば衣玖さんは初対面だったわね。彼女は堀川雷鼓。ま、ちょっとした腐れ縁っていうかね。」
「出身国からこっちに来るとき一緒だったんだ!あと、右も左も分からないわたしを拾ってくれて…」
「え、拾って…?」
「あ、いや、迷子になってただけよ!」
慌てて雷鼓の言葉を遮る早苗。その様子に不振な眼差しを向けながらも、そうですかと言って、それ以上は何も聞かなかった。
「ごめん、悪い方だった?」
「そうね、”まだ”悪い方ね。…っと、あんたにも紹介しておく必要があるわね。この人永江衣玖。なんか、浜辺に打ち上げられてた。」
「いや、間違ってはいないのですが。」
微妙な自己紹介に、思わず苦虫を噛んだようなような顔になる。ただそんな適当な自己紹介もそっか、よろしく!の一言で済ませてしまうのは彼女の性格か、頭か。
「それでらっこさん、決まった?」
「ああ!もし皆が同意してくれるんなら、わたしもチームに入るぞ!」
「ありがと!じゃあ加入決定ね!」
「ちょっと。」
何か不満があったらしい、挙手をして目で訴えかける。
「…あぁ、みのりんはすでに話してて同意済みよ。」
「そーじゃなくて。私の意見は端から無視ですか。」
「あんたの意見なんてあってないようなもんでしょ。」
「うわ酷い。酷いけど否定できないのがつらい。」
初対面であるのは自分だけ、早苗も穣子もこの人がどのような人であるかを知っている。上に友人関係。自分が意見することなど何もない。
ただちょっと、眼中になかったというリアクションが気に食わなかっただけなんです分かってください。
「…そういえば、雷鼓さんはチーム内での役割は何になるのでしょう?」
「雷鼓でいいぞ。多分、戦士じゃないかな?こう見えても腕っ節には自慢があるんだ!あとは、リズム感とな!」
どや、と腕を組んで威張ってみせる。後者は何の役に立つのか分からなかったが、とりあえず前衛に突撃していくタイプだということは分かった。
「じゃああとは2人ね。うん、いい感じに集まってきてるわ。あとは僧侶が来てくれると嬉しいとこなんだけど…まぁ、治癒の心得はあたしにもあるし、みのりんもあるから居なくても大丈夫っちゃあ大丈夫なんだけど。」
「…早苗さん、職業なんですか。」
「本職って言ったら巫女になるわよ。東洋の神とこっちの精霊は似たような性質があるから、多分その内召喚術を身につけるつもり。あと、こっちに来てから聖北のことかじったりしてたから、ついでに『癒身の法』だけ身につけたり。あと、興味本位でかじった盗賊の技術が意外と楽しくって、わりと本格的に手を出したわ。」
「……」
盗賊で回復ができる、というよりも、巫女で暗殺ができる、という方が正しいらしい。思わずなんでもありか、とツッコミをいれたくなってしまう。
「…あ、あのっ…」
「うおあびっくりした!あんた誰!?」
と、唐突に後ろから声を掛けられて驚く早苗。その声に立っていた少女はびくりと体を震わせる。
気配を隠していないのに早苗が気がつかない、というのは少しおかしな話である。彼女は人の気配には敏感で、周囲に人が居れば基本的には感知できる。それが、今回ばかりは本当に誰もいない、そう思っていたのだ。
それが、何を意味するか。
「あっ、あの、ごごご、ごめんなさいっ…そ、その…わ、わた、
「あっルナサ!昨日一緒に演奏した子だよな!」
と、雷鼓が困っている彼女の手を握りブンブン振り回す。何だ、知り合いだったのねと早苗は意外そうな顔をした。
雷鼓は二人は知らないだろうからときって、昨日あったことを簡略化して話す。ルナサを誉めるような言葉が多く、それを聞いた彼女は顔を赤くして照れていた。
「へぇ昨日そんなことやってたの…やぁねー青春しちゃってー、早苗ちゃんそういうの大っ好きよー!」
「青春…なのでしょうかそれは…」
仲間になって一週間が経とうとする今でも、衣玖はなかなか早苗のテンションについていけなかった。周りはそうでもないので、それが不思議で仕方がない。長年のつきあいというのもあるのだろうが。
「それでどうしたんだルナサ。また一緒に合奏したくなったか?」
その言葉に対し、首を横に振る。それも願ったりかなったりなんだけれど、としどろもどろになりながら、彼女は一生懸命途切れ途切れの言葉を紡いだ。
「わ、私も…私も冒険者になりたいの!」
「…君は?どうしてあたしの名前を知ってるの?」
声の主を探すために少し大通りから離れると、気づけば路地裏の人目につかないところに迷い込んでいた。
見つけるなり、警戒しながら穣子は名前を呼んだ人を強く睨みつける。顔を覆ってしまうようなローブを纏っているせいでそれは見えないが、声からして女性だろう。背はそこまで大きくなく、小柄な体格なのは確かだった。
「やっと…やっと会えたわ…長かった…ずっと…ずっと探してた…」
「…?」
心なしか少し涙声のようにも聞こえる。それが穣子を困惑させたが、逆に警戒心を強める結果となった。
もし、それを信用して騙されることになったら。
何か異様なものに見えた。得体の知れない、何かに。
逃げた方がいい。そう思って駆け出す刹那、彼女は穣子の腕を掴んだ。
「ちょっと、離して
「お願い、ここから…リューンから離れて。」
「は?何言ってるの…そんなことしないし、する義理もないさ…何が狙いなのかは分からないけど、やだね!」
掴む手を振り払う。あまり力は強くなかったので、それは簡単に叶った。
が、足を前に出そうとして、それと中断させられる。何かに強くひっぱられた。
何事かと思い、足下を見る。そこにはびっしりと、蔦が絡まっていた。
「…っ!?」
「お願いだから、話を聞いて。」
一歩、また一歩と近づく。睨みつけて反抗する態度を取るが、うっすら冷や汗が流れ出ていた。
この温度差である。
正直ここからは結構この話駄作だと思ってる。なんか、筆がすすまなかったっていうかその