しばらく更新していなかった理由。展開があんまりにもあんまりだったんで書き直そうかずっと考えてました。結局めんど…時間が取れそうになかったのでそのままですてへ!!
「…皆っ!その人の言うことは本当!」
「は、何言ってーー」
「もし追われてる身なら!あたしならローブを着たりしてない!」
そう、特徴にあったのは、『ローブを着た小柄な女性』。つまり、ローブを脱いでしまえば当てはまる条件は『小柄な女性』だけになる。それに当てはまる人はリューンに多数いる以上、まずいきなり疑われる、ということはなくなるだろう。
しかし、彼女はそれでもなお着ている。ということは、そのような情報が流れているということを知らなかったからではないか。
そして、知らなかったが、嘘と根拠づける何かが彼女にはあったのではないか。
そう、睨んだ。
「…ローブが脱げないことに理由があるのは考えられないかしら?」
「吸血鬼みたいに日の光に弱い種族ならともかくとして…彼女に、何がある?」
まだ正体を早苗にしか明かしていない以上、気づいてもらう方法しか取れない。早苗は最初は首を傾げていたが、唐突にハッとした。どうやら気がついたようだ。
神、それも東国の神で日の光に弱い神は一般的には聞かない。もしかしたら居るのかもしれないが、少なくとも二人は知らない。
「……」
スッと、武器をしまう。穣子の主張に納得したというよりは、穣子がそこまで止める何か別の理由がある、ということからだった。
今の彼女は、悪人だと思った人物には容赦はしない。信用できないと思えば疑ってかかる。そんな穣子が、止めるのだ。
ただ、止めるのが遅かったせいで、ローブはすでにボロボロになり、あちこちに赤い血飛沫が飛散していた。今もなお、体のあちこちからはポタポタと滴がこぼれ落ちる。
「…ごめんね、呼んだの、あたしだったのに。来たら来たで止めちゃって。」
「その間に何か揺れ動かされたってことでしょ。…ただ、あたしは謝らないわよ。疑いが晴れたわけでもないし、疑うような行動を取ったわけなんだから。」
そう言って、早苗は彼女を睨みつける。息を荒げ、立っていられなくなり、その場にうずくまっていた。
「あら残念。もうちょっと痛めつけてくれても良かったのに。」
と、唐突に外野の声。誰のものかと当たりを見回すが誰も居ない。
「…!上っ…」
早苗が気がついたのは、屋根の上の一つの影だった。バレたことを相手が悟ると、そこから一気に飛び降りた…が、地面の近くまで来ると落下速度が急激に落ち、ふわりとその場に舞い降りた。
「…巫女ね。そいつに仕えてるのかしら?」
「あらやだ冗談を。誰がこんな低俗な神に従えっていうのよ。こいつはただの私の道具よ。」
「なーー」
ガッと、その巫女は道具と言われた彼女の頭を掴む。痛そうなうめき声をあげるも、反撃できるような気力は残っていなかった。
「私は神に従うんじゃなくて、神を制圧するの。3、4柱くらいはもう思いのまま操れるようになったんだけど…こいつ、力が本当に弱いくせにやたら反抗的でねぇ。一回は捨てたんだけど、そしたら面白いことになってたから、また拾ったわけ。
余計面倒なことになって手を煩わせるから、こうして嘘の張り紙を出しておいて、誰かに痛めつけてもらってから私が回収してその力を貰おうって思って。結果オーライだからいいんだけど。」
ありがとうね、と言ってくるりと背を向ける。乱雑に頭を捕まれ、引きずられる形となっても彼女は動かなかった。
…巫女の言動通りとなるのならば、彼女は巫女に無理矢理力を貸し、こき使われることになるのだろう。抵抗することも許されないまま、言われるがまま、使われるまま。まるで、道具のように。
「あ、そうそう、そこのちっちゃい神ちゃん。あんたの力も前々から狙ってたんだけど、手伝ってくれたから見逃してあげるわ。東国に行けば、嫌なほど狩れるしね。」
今度こそじゃあね、とひらひら片手を振る。その刹那、本当に小さな声で、微笑みが含んだそれは聞こえた。
ー良かった、と。
「…だから。」
穣子の指から、一本の光の矢が放たれる。わざと、相手の頬を掠める掠めない、ギリギリのところに。
「…だから、リューンから離れて、って…その人言ったんだ。あたしを守るために、そう言ったんだ…!」
神である以上、巫女に霊力を読まれ、正体が知られてしまうのは仕方のないこと。故に、自分の知らないところで前々から目をつけられていたのだろう。
それを知っていたから、彼女は小さな神が囚われの身にならないよう、逃がそうとした。本来の目的は、そこにあった。
まだ分からないことはあるが、確実に分かったことがある。
「…させない…許さない…君が低俗呼ばわりした神は、誰よりも純粋でずっと優しい…それが分からないような人に、好き勝手させるもんか!」
杖を、握る。怯えの表情は無い。
「…は?あんた、私に勝てるとでも思ってるわけ?あんたも…私の道具になりたいの?それはそれで大歓迎なんだけど。」
「道具ってのは。」
すっと、横に並ぶ。ずっと黙っていた雷鼓だった。
「確かに誰かに使われて、初めて道具って成りえる。けど、道具には権利がある。幸せに使われる権利さ。
君は間違ってる。使われることに喜びを覚える、この人の為なら全力を尽くせる。そう思わせるのが、使い主の役目であって、それが果たされるってのが道具の権利。権利なしの駆使は…ただの下僕扱いだ!」
刀を構え、相手に向かって走り出す。敵う敵わないの問題はそこにはない。許せない、解せない。怒りによる攻撃は単調で、すぐに読まれて避けられてしまう。
「ふんっ、命知らずねー」
片手を出し、霊力を込める。神を飲んだ、巫女の霊力は相当なものだ。早苗がすぐに避けるように叫ぶも、その声は届かない。
込められたそれが、一気に雷鼓に、
「……な…」
届かなかった。
「やれやれ、無鉄砲な奴らめ。私が来なかったら死んでいたぞ。」
かつんーーと、小さな音が響きわたる。それとほぼ同時に、雷鼓の刀が巫女の体を貫いていた。
「ら、藍!?」
八雲藍。『妖々花』の参謀を勤める、金髪で長身の女性。鋭く尖った、万物を射抜くかのような瞳は冷たさを放つ。にやりと笑って、その瞳巫女をじっと見つめる。
「くそ…よくも…!」
「守矢の巫女、この間もらった札を使わせてもらった。ま、一発ネタだが、今のような使い方をすれば結構役に立つものだろ?」
発動しなかったのは何故か。それは、行動前に張られた一枚の札のせいだった。
それは霊力の流れを遮断させるもの。外から霊力を取り込むことができないし、出すこともできない。かなり限定的なシチュエーションでしか使えない上、作るのは簡単なので、早苗は藍に数枚譲ったのだ。
ただその札は張られた本人でも触れることができる。ベリッと音を立てて剥がし、引き抜く動作に移行した直後の雷鼓に再び力を駆使しようとする。
「はいはい、そのくらいにしなさい。数でもだけど、質でも負けてるのよ。」
「ーーっ」
これもまた中断させられる。何かに縛られたといった感じで、今度は体が動かなかった。
離れたところに一つの影。『妖々花』のもう一人の魔法使い、アリス・マーガトロイドだ。
双牙亭の数少ない西洋の者。ふんわりとした金髪をなびかせて、人形のような可愛らしい笑みを浮かべる。手には数本のワイヤーのようなものが握られていた。
彼女は人形を扱った魔法を駆使し、魔力を駆使して物理的な現象を起こす。かと思いきや、人形から魔法を放ち始めるから攻撃方法はかなり豊富だ。
「…あんたも居るってことは。」
「勿論、私も居ますよ。」
それから、リーダーの妖夢。もうこうなってしまうと、勝ち目は決定したも同然だった。
フルメンバーが集ったのかと思ったが、どうやらこれで最後のようで、残りの3人はここには居ないようだ。
「…つけてたの?」
「いえ、私たちはただの依頼でその女性…そっちの巫女の方を探していたのです。結構過激なことをする方だったようでして、自警団から捕らてほしいという依頼がありました。2000spとはかなりの実力者でしょうが…藍やアリスの前では無力ですね。」
結局、私は今回もいいとこなしですね、と苦笑する。単なる偶然にはできすぎている。もしかしたら本当は心配になって追ってきたのかもしれない。
「後は私たちがこいつを何とかするから…お前らは、そこのローブ被ってるやつを何とかしろ。」
その言葉と共に、藍は一つの依頼書を衣玖に手渡す。
それは、彼女が宿を出るときに見たものだった。
渡された意味。衣玖はすぐに、それを理解した。
・
・
「…大丈夫?」
穣子が『穀物神の約束』で傷を癒す。放っておいてもそれほど時間が経たない内に治るのだろうが、そのままにはとてもできなかった。
「大丈夫よ…皆さんも、ご迷惑をおかけいたしました。」
ボロボロになったローブをまとったまま、深く頭を下げる。意地でもそれを手放す気はないようだ。
あのままあの巫女は自警団の方へと連れていかれた。高額の報酬が入ることによって、今晩は飲み会が開かれるかもしれない。
そして、嘘の依頼書であっても、荷担していたことには変わりないわけで。
「…分かっています。不本意であれ、手を貸していたという事実には変わりありませんから。…私も、罪を償います。」
「…って言ってるけど、どうするのリーダー。」
にやりと笑って、早苗が衣玖に尋ねる。どう返答するか、分かっているかのような表情で。
「決まっています。貴方は確かに、罪を償う必要があるかもしれません。私には分かりませんが、罰せられないと許せないものがあるのでしょう。それでしたら、償えばいい…しかし、それは貴方の行こうとしているところではありません。」
ビリィッと、持っていた依頼書を破る。二回、三回…破られた紙は、風に乗ってどこかへ飛んでいく。
振り返る。4人の仲間は何をするか分かったように、こくりと頷く。無言の同意。それがあったら、もう十分だ。
「…いらっしゃい、私たちのチームへ!」
「…っ!」
予想していなかったのだろう、体を強ばらせる。表情はちゃんと見えないが、どんな表情をしているのかは容易に想像できた。
「…あの、でも…私……仲間になるわけには…こんな姿ですし…」
ローブで顔を隠すよう、深く被り直す。その姿を見て、穣子が動く。
「気になってたんだけど、どうして姿隠すの。見ちゃいけない何かでもある?」
「…あの、その…」
口ごもり、黙る。いい加減じれったくなったのか、あああもぉおおおおお!!と、奇声を発した早苗が距離を詰め、一気にボロ布と化したそれを奪い取った。
「ーーっ」
あまりの不意打ちに対応できず、ずっと隠されていた顔が露わになる。そこには、植物のようなツタが絡みつき、緑っぽく変色した皮膚…とても人とは思えない異形の顔がそこにはあった。
ずっと、これを見られたくなくて隠していたのだろう。受け入れられるわけがない、気持ち悪いこれを晒すなど。そうやって、恐れてきたに違いない。
「…『ディリマの秘儀』。体に根を張って、魔力よりも純粋な、精霊のような力を駆使して行われる魔術。植物と一体化するけど、慣れないうちはその植物を隠すことができない…」
「……」
これで分かった?と、憂いを帯びた悲しそうな笑みを浮かべる。仲間一同、それに対して各で目配りする。
はぁ、と一つため息をつき、のぞき込むようにして、
「なぁんだ、つまんない。」
呆れたような声で言った。
「えっ、だ、だって、こんな…」
「もっと面白い顔してるのかと思ったんだけどなー。こう、ゴブリンとコボルトが混じったみたいな、そんなめっちゃくちゃな。『森の賢者』を名乗る駆け出しの人って皆そうじゃん。無個性、当たり前。そんなのでいちいち悩むなんて、うちでは無意味だね。」
「そうそう、うちはなんて言っても、寛大さがウリだもの!ねっ皆も別に、あれ面白い顔って思うでしょ?」
「面白いは失礼ですよ、気にしていらっしゃるのですから…でも、私はよろしいと思いますよ。」
「いい個性だと思うぞ!ほっとんどの人には無い、いい特徴だ!」
「ちょっとびっくりしちゃったけど…でも、私も…気にすることないと思うよ…」
「…皆さん…」
5人それぞれの意見は違えど、皆それをいいものだと思っている。ここのチームには、受け入れない者は居ない。
「…ありがとう……ございます…みなさ…」
「あらら、泣いちゃった。あたし達の居るところ、皆個性的だからね。顔がちょっと愉快なことになってるだけじゃあ、なっかなか目立て無いよ。」
そう言って、手を差し出す。手にもツタのようなものが張っていたが、穣子は全く気にしなかった。
久々に握った、誰かの手。それはとても、暖かくて、優しかった。
も の す ご く て ん か い が き に い り ま せ ん 。
藍しゃまらが駆けつけるのは全然問題ない。その予定だったから。でもね、これよく考えるとみのりんの証明がめちゃくちゃなのよね。多分、それでなんか、こうもジタゴロしてます。
『ディリマの秘儀』のくだり
…『白亜の城』 jim様