※東方ではなく、完全にうちのオリキャラさんたちのリプレイです。
※はいずっと前に紹介したテンションたっかいあいつらです。
彩華(さいか)という、駆け出しのパーティという名の問題児の集い。比較的まともな人もいるものの、圧倒的問題児を3人ほど抱える、皆大好き親父さん泣かせのそんなチームがある。
最も、親父さんだけが泣いているかというとそういうわけでもなく、そんな仲間を抱えた比較的マトモーなリーダーもなかなか苦労しているわけで。不憫さならこのチームが滞在している都市、リューンの中なら1位も夢ではない。
と、まあ。そんなパーティの、そんな不憫リーダーは朝から不憫な目に遭っていた。
「おはようセルリアン…って、なんかすっごい不機嫌そうね…」
セルリアンというのはその例の不憫リーダーである。水色の短い髪の毛と、女子かと疑いたくなるようなまな板っぷりが特徴的な列記とした女子だ。対してそんな言葉を投げかけたのはセルリアンよりも身長も胸もカリスマも女子力も高い、このチームのオカン担当レグホン。白い髪を緩めに束ね、それを肩から前に垂らしているところが余計にオカン臭を漂わせているしかし17歳というピッチピチの若者である。
その言葉を聞いて、一つため息をついてレグホンの隣に座る。他の仲間はすでに全員起きていたようで、すでにいつもの6人がそこに並んでいた。
「何があったの。」
「…ウィスタリアに蹴られた。」
ウィスタリア、チームの肉体担当。薄紫のポニーテールが上品さを…醸し出しているのかもしれないが、それよりも持ち前の鍛え上げられたボディと、全く構わない脳筋っぷりが全部台無しにしてくれている。
名前を呼ばれて本人はきょとんとしている。どうやら自覚はないらしい。
「ちょっと待って、全員個室だったわよねうちのパーティー。」
「そうだ…だが…突き破ってきたんだよバカかこいつそうだバカだったよ!!」
全員個室の理由はチームの大半が個室を希望したからという割となんでもない理由から。ただ、ちょうどセルリアンの隣の個室がウィスタリアの部屋で、どうも寝ている内に壁を貫通して頭を蹴り飛ばしたらしい。セルリアンでなければ死んでいた。
「あ、そうだった?てっきりその穴、セルリアンが開けたもんだって
「んなわけないだろ!!なんだお前どういう寝方してるんだ何をどうしたらこうなるんだおっかしいだろ!!」
「そう言われてもさぁー、夢の中で巨大アザラシと戦ってたんだし、そのくらい許してくれよー。」
一応悪いとは思っているらしく、手を合わせて頭を何度も下げる。必死に大人が若者に謝る姿はなんとも滑稽に見える。
彼女が大人に見えるかどうかという問題はさておいて。
「セルりん、質問。壁の修理代、まさかパーティ財産からって言わないよね?」
「それしかないだろ…って、すっごく納得しない顔してるな。」
「あったり前じゃん!!何が悲しくて全く関係してないあたしらにも被害出るのさ!リーダーの個別資金から出せばいいじゃんか!!」
ガタァッと椅子をひっくり返して立ち上がるのは、オレンジ色の小さなツインテールを揺らすまだまだ少女のテラコッタ。問題児その2である。
彼女は人という人を信じず、自己中心的な考え方しかできない。他人の為に自分が何かするは?何言ってんの寝言は寝て言え思考の彼女にとって、パーティ資産から個人の問題に当てられるというのが非情に納得できないらしい。
「何で被害者の私が出さなきゃいけないんだ!大体、嫌ならウィスタリアに言えよ!」
「言ったところで忘れるでしょ!被害者のセルりんが何とかすりゃいーじゃん!」
「訳が分からん被害者が金出すのはカツアゲだけでいーわ!」
「じゃあもういっそカツアゲされろー!!」
「わ、け、喧嘩はだめですよー!」
喧嘩(というか不毛な争い)を始めた二人の仲裁に入るのは、どことなく高貴なお嬢様といった雰囲気を醸し出すゆるふわ系女子のカナリア。彼女は亡霊であり、か弱い生命なら触れただけでそのものを死へと誘うことができてしまう。故に袖の長い服で決して手が出ないようにし、何とかこうして普通の仲間として過ごしている。
なお、亡霊になった理由は割としょうもないので、ここでは割愛しておく。
「あーもうっ、分かったわよ!私のお金から出せば何も問題ないでしょ!」
「ダメダメ、レグっちはこれに何も関与してないよ!払う理由が何にもないって!」
「おい私と比べてめちゃくちゃ真っ当なこといってないか?」
これが不憫とママンの違いである。何となく、セルリアンに対してはむちゃくちゃいってもいいが、レグホンに言っては何かこう、子供がお母さんのいいつけを守らないみたいな、そんな気持ちになるのであった。オカンパワー恐るべし。
「…レグホン、そういうお金の使い方、嫌いじゃねぇぜ?」
「シャトルーズは単純に自分関与の出費にしたくないだけでしょーが。」
シャトルーズと呼ばれた女性はご名答と言わんばかりにピースをしてみせる。やれやれと、思わずため息をついた。
この女性はこのパーティの一番の問題児。秀麗なその容姿とは裏腹に、やることなすこと過激でサディスティック。他人の不幸は私の主食とでも言わんばかりのサドである。その様子故に、彩華のラスボスとまで言われる始末である。
「…いいよ、もう。パーティ資金で。」
「はいはーい。差し引かれた分セルリアンの懐から抜いておけば
「やめろただでさえなんか減ってるんだ。」
お金の管理は基本的にセルリアンがやっている。他の仲間には不安要素しかないし、レグホンに頼むのは何となく気が引けた。
彼女はオカン属性からか、仲間の雑用を言われなくてもやってくれる。その陰の苦労を知っているからこそ、セルリアンは頼むに頼めなかったのだ。それはもう、お母さんのお手伝いをするような子供の如し。どっちが年上とは言わんけど。
「あ、それ多分あたしのせいだわはははザマァ。」
「お前のせいか!そんな気はしてたけどお前のせいか!!」
寝ているところでも狙ったのだろうか。というかこの人なら素で脅してぶん取っていけるような気がしないでもない。というより、そんな気しかしない。
と、まぁこんな至って日常的なやりとりをしていると、普通なら宿の親父さんが絡んでくるところ。しかし今日は絡むどころか、娘さんと何やらコソコソ話をしていたのだ。
「水しか注文しないし、訳の分からない本読みながらブツブツ言ってるし…気味が悪いわよ。」
「おいおい、客をそんな風に言うもんじゃないぞ。確かに水しか頼まんのは困りもんだが…」
「どうした、何の話だ?」
仲間との会話を打ち切り、親父さんたちにセルリアンが尋ねる。全員揃っていたことに今更気づいたらしい、お前等かと全員の顔を確認した後、目線を配って離れた席にいる一人の老人を示唆した。
魔術師風のローブに身を包んだその老人は、酒場の隅の席に陣取って熱心に読書にふけっている。
魔術となると、少なからず反応する人がこのパーティには2人ほど存在するわけで。
「魔術。」
「ほうほうほうほう?」
僧侶のレグホン、魔術師のシャトルーズがガタンッと音を立てて席を立つ。横で呆れたと言わんばかりにテラコッタが小さなため息をついた。
後者は分かるが、前者は何故か。レグホンは魔法の術式を織物に込め、マジックアイテムを作ることができる。彼女自身魔術を組み立てる知識がないので、他の人の術式を自身で理解し、組み立てるという手段を取らざるを得ないのだ。
…十分それだけでも賢者の塔に買ってもらえるものであるし、魔術師に匹敵するような気はする。
「…何か頷いたりブツブツ言ってて不気味です…」
「お前が言うかそれ。」
亡霊カナリアの不気味だという一言。お前が言うなぁああああ!!の一言をあの赤い髪の毛のイケメンなら言ってくれたに違いない。
今のところ、宿に他の客はいない。しかし、やってきたならその老人の不気味さから来店ダッシュ不可避だろう。不気味なんだもん。
「…うーん、古代語だから私は分からないわね。」
「魔術に対してそれなりの知識がないと、まず読めねぇってことだな…うぅーん、気になる!」
「…セルりん、面倒ごとの予感がするから二人なだめてよ。」
「片方はともかくもう片方は炭確定じゃないか。」
セルりんだから何にも問題ないでしょー?と言いたげに軽くにらみつける。口に出して、大声でツッコミを入れられて、あの老婆がこっちの現状に興味を向けられるのが面倒だと判断したテラコッタだった。
「…ん?」
まあ、どっちみち気づかれたわけだが。
「何だ、そこの。この本に興味があるのか?」
「ないよ、ただ
「ある!」
「超あるッ!!」
あーあ、やっちゃった、白いのと赤いのが反応しちゃった。それはもう、餌を待つ観光地スポットの鯉そのものである。
…テラコッタは心底めんどくさそうな顔をし、ウィスタリアに至っては笑顔で首を傾げている。もうこの時点で状況把握できていないだろうこの脳筋めが。
「ふむ、そういうことであれば、少しばかりこの老いぼれの時間につき合ってくれ。…そこの嬢ちゃんが不服そうだから、つき合ってくれるのであればこれをやろうぞ。」
そう言うと、老人は仲間達の元へえっちらおっちら近づくと、服の中をごそごそとし、アミュレットをほれと彩華のメンバーたちに見せる。話によれば、それは200spほどの売値になるアイテムだそうだ。
「…やっす。」
「何言ってるのよ、興味持ったのは元々こっちだし、それに加えて報酬もくれるっていうのよ、ありがたすぎるわ。」
それは君らが反応するからじゃんか、とぼそり小声で呟く。聞こえたらしく、苦笑しながらレグホンはそっと手を合わせた。え、シャトルーズさん?ワールドイズマインのあの人が謝罪の心を持ち合わせているはずがない。
「…で、だ。あたし達はどうすりゃいいんだ?」
「何簡単なこと、儂の腕試しにつき合ってもらうだけだ。この本には人間を動物に変える魔術について書かれた本でな……って、どうした?」
『人間を動物に変える』、ここまで聞いて二人のうち、赤い魔術師はじゃあいいや、とにこやかに後ろに戻る。逆にもう一人の白い僧侶はがっつり興味津々になっていた。
シャトルーズには、「攻撃魔法いず最強」という美学が築かれており、自分の美学に通じる魔法にはとことん興味があるが、それ以外にはとことん興味がないのだ。炎の術式を中心に扱う彼女だが、属性自体は興味対象には入らないらしい(しかしやはり炎系の術式を多様しているが)。対してレグホンは布に術式を織り込むため、『自分の知らない術式』となるととことん興味を持つ。
…何やらタチの悪い品ができそうな未来しかできないというのはさておき。
「…レグホンさんは流石ですねぇ…」
「な。あいつたまに聖職者ってこと疑いたくなるんだ。」
と、カナリアとセルリアンの声が聞こえたか聞こえてないかは分からないが、レグホンは続けて続けてと、老人に催促する。かなり神妙な顔をしていたが、まあいっかと一つ咳払いをして再び話し始めた。
「…コホン、でだ。読んでいるうちに儂にも使いこなせるかどうか試したくなっての。よかったら実験台になってくれんか。
なぁに、失敗してもお主等に危険が及ぶことはない。この魔法においての失敗とは、全く何の効果も表れないことを意味するからの。」
そこまで話して、一息つく。一名を除いての仲間はただぼんやりと聞いていたが、ふと疑問がでてきたカナリアが疑問を投げかけた。
「あの、変身したあとに元の姿に戻る方法はあるのでしょうか?」
「無論。元に戻すのは赤子をあやすよりも簡単だぞ。」
その一言にほっとなで下ろすカナリア。亡霊となる経験をした彼女は、危険が少しでも感じられる状況下ではやたら神経質になる。普段は抹茶でも飲みながらほげーっとしているマイペース娘だというのに、こんな謎の切り替わりがある。謎い。
「…で、レグっちどーすんの?信じんの?」
「おいこらリーダー無視か。」
「ばーか、ほっとんどレグっちが決定権握ってるようなもんじゃんか。ガッツリ食いついてるのレグっちだし。」
それは普通の依頼でも私最優先で尋ねるか。やだなぁー尋ねるわけないじゃん決まってるじゃん。
目線だけでそんな二言ほどやりとりをし、ちらりとレグホンの方を見る。受けちゃダメですか?という、子供のおねだり顔負けのキラキラビームだ。
「…しょうがないな、いいよ、つき合ってやる。」
「あっありがとう!ごめんね、私のわがままなのにじゃあご老人お願いしますセルリアンに!」
「ファッ!?」
綺麗にオーダー入りましたー。まさかというか、ある意味お約束とも言えるこの展開、流石にツッコミを入れるしかない。
なお、傍らで相変わらず首を傾げている脳筋がいるのはまた別のお話。
「ストォオオオップ!何で私なんだ!?そこは流れ的にレグホンじゃないのか!!」
「はぁ…とことん馬鹿だね。魔法とかしょーじきよく分かんないけど、術式とか効果とか見てないとレグっちのためなんないじゃん?」
「そうだー?ほら、レグホンのためにも、お前がニエになってだなぁ?」
「間違いなくお前等は『セルリアンだから』のその一言の理由だろうがぁああああ!!」
バレたかぁえっへぇーと、頭をグーでお茶目にコツンとしてみせる二人。片方はともかく、もう片方は年齢的に見せる暴力である。
「っていうか、『つき合ってやる』言っちゃったしね。そこは責任取ろうね?」
「ほらほら、男見せろよ男を!」
「私は女だぁあああああ!!」
がおーと、天をも轟かせるリーダーの哀れなる咆哮。相変わらずの無駄な抵抗である。
しかしテラコッタの言うことは間違っても正論である。レグホンと亡霊でどうなるか全く想像がつかないカナリアを除外すると、そうなったら我らがやっかいなお荷物持ちセルリアン!となるわけで。
え、残りの3人?何でセルリアンがいるのに私がっていうか何で私なの関係ないのに、という顔をしていますね?
「まーあー?ぶっちゃけー?リーダーが引き受けなくて泣くのってレグホンだしぃー?あたしら関係ねぇーしぃー?」
「レグっちかっわいそー…自分の気になる魔法のために、仲間の助けを借りようとしても誰も手をさしのべてくれないなんてっ…!」
「お前等がやれよそしたらぁああああ!!もういーよ分かった、私にかけろその魔法!!」
ついに腹をくくったらしい。椅子を老人の前にデンッと置いてドンッと座る。流石にそんなやりとりをされてはレグホンとしても心が痛いわけで、さっきから謝罪と別にいいという言葉の連続である。
「…凄い仲間を持っているな。」
「自慢できるレベルだろう。ふふっ、お陰でな…胃が痛いんだ…」
あー、と、納得するしかなかった。乾いた笑みからこれまでの悲痛さが伺われる。
神よ、一体この若者にどれほどの重荷を背負わせたというのか…
「…本当によいか?いやなんていうか、覚悟というかその…」
「大丈夫だ…死には、しないんだろう…?」
それは、生き地獄というのではなかろうか、と老人はツッコもうとしたが、言ってしまえば色々と精神的に崩れさる気がして黙るしかなかった。
「で、では目を閉じて、出来るだけ何も考えんようにしてくれ。」
「分かった。」
「セルリアーン、遺書、書かなくていいのかー?」
「死なないからいい!!」
そんなやりとりを見せられると、うっかり死ぬような事態にしちゃったら……死ぬな、この仲間的に。
謎のプレッシャーに襲わされるその一言。一つ深呼吸し、再び呪文書の文字に目をやる。
「では改めて、始めるぞ。」
老人はセルリアンの額に右手の人差し指を当てながら、呪文の言葉を紡ぎ始めた。
「~~~~~~、~~、~~~~~」
魔法に疎いものには何を言っているかは皆目分からない。…端から聞こうとしている者がこの場にほっとんど居ないというのもあるが。
「…ふんっ!!」
老人が念を込めると、酒場に爆発のような音が響きわたり、それと同時に白煙が一面の視界を覆い尽くす。
程なくして白煙は消え、そこで仲間達が目にしたものは、ついさっきまでセルリアンが腰掛けていた席に脱ぎ捨てられた服だった。
「この服…セルリアンの…」
一番近場に居たレグホンが、彼女の服を持ち上げる。すると、そこには一匹の大きな――
「……」
蛙が、いた。
下に続く