犬小屋という名の倉庫

主にうごメモ、写真を乗っけるように使います。主に使うブログはこっちじゃないです。

東方リプレイ1-7 『緋の風が妖しく輝き』

「…冒険者志願?マジで?」

面食らったように早苗は震えながらルナサに確認する。その様子に少なからず驚いたが、こくこくと首を縦に振った。

「あのっ…だ、ダメかな…?」

「いや、そーじゃなくって…どー見ても冒険者みたいな荒事するよーには見えなくて…戦えるの?」

それを尋ねると困った表情をする。多分、戦うすべは何も持っていないのだろう。そう言われて、彼女は早くも折れそうになった。

かに見えたが。

「…わ、私の武器…これ、だから…」

震えた声でそう言うと、持っていたヴァイオリンを構える。そして、演奏すると共に、

「ーー」

とても綺麗な声で、歌い始めた。

しかもそれはただの歌ではなかった。聞くと、不思議と力が沸いてくるのだ。夏の日差しのような、明るく力強い歌。この少女には少し似合わない旋律だったが、素晴らしいものであった。思わずその場に居たもの皆が感嘆の声を漏らした。

「…なっへそ…吟遊詩人ね…いやぁ、参ったわ。」

「あ、あのっ…確かに皆みたいに戦うのはできないけど…でも、こうやってサポートはできるからっ…だからっ…」

お願いします、と深く頭を下げる。ここまで来ると断るに断れないわけで。

「…仲間に迎えてやってはどうでしょう。きっと役に立ってくださると思いますし…何より、断る理由が分かりません。」

「わたしも賛成。…だけどさ。」

その逆説の言葉に、分かってると小さく返す。しばらく悩んで、何かを思いついたのか、手をポンっと叩いて服の裏側に手を入れた。

ごそごそと漁って、取り出されたものは一つの十字架だった。銀色に輝くそれを、早苗はルナサにつきだした。

「最終試験。これ、触れる?」

「っ…!!」

ただ、触るだけ。普通の人間なら何も思わずそれに触れることが出来ただろう。

しかし、彼女はそれから逃げるかのように後ずさった。手を伸ばそうとする素振りは見せるものの、それが出来ないといった様子。酷く体を震わせ、怯えている。

「…なるほど、やっぱりね。」

「っ……」

十字架を仕舞い、後ずさった分だけ彼女に近づく。彼女はじっと、ただそれを見つめていた。

何故バレてしまったのか。一言も言っていないのに、何故。考えようとしても分からない。分からないけれど、確実に。

「ルナサ。」

…仲間に、なれない。

「…スーパー超大歓迎っ!!いやぁこれで不安要素なんっにもなくなったわー!!」

「…へっ?」

いえーいっ、と早苗と雷鼓が互いにハイタッチをする。その光景に、思っていたリアクションとあまりにもかけ離れすぎていてかなり間抜けな声が出た。

それを見て、衣玖が横から口を挟んだ。
「あの、えっと…彼女は幽霊…っという認識でいいのでしょうか…?でも、幽霊を仲間にって…」

「え何?衣玖さん反対?種族差別するの?うわーうわーこの人でなしー。」

「そうだそうだ!種族が幽霊だからって仲間外れにするのはよくないぞー!人間に混じりたい別種族だってたっくさんいるんだぞー!」

「あっ、い、いえ、そうではなくって。」

誤解を生んでしまったことに気がつき、二人のブーイングの嵐を中断させる。胸に手を当てて、優しく微笑んで、

「…何となく、いいな、と思いまして。何となくですが、こうして他の種族を受け入れることができるこのことが…とても素晴らしいことだと思ったのです。」

「……」

クサいセリフ言って、恥ずかしくなったのか。顔を真っ赤にして、今のは忘れてくださいと必死に手をわたわたさせた。その姿がちょっと可愛らしくて、早苗と雷鼓の笑いを誘った。

「…ま、うちってこんなカンジで、幽霊も大歓迎なのよね。だから気にしなさんな。人間じゃない、種族が違う、だからって何も気にすることは無いわよ。それが受け入れられない人なんて、うちの宿に所属している冒険者にはいないわ。」

「っ……」

恐らく、気にしていたことなのだろう。どのような経緯があってそのような身になってしまったのかは分からないが、確実に自分が『人間とは異なる異質なもの』であることに違いないという事実に縛られていたに違いない。

それがバレて、受け入れられて。たったそれだけのことなのだが、それがなかなかできないのが『種族』というもの。それは、早苗も、雷鼓も、よく分かっていた。

だからこそ。

「…それじゃ、これからーー」

よろしく、そう言おうとした刹那、

「…みのりん?」

突然明後日の方向に向いて、早苗が呟いた。

「?どうしたのですか早苗?」

「……っ!?ど、どうしたの何があったの穣子!!」

端から見れば大きな独り言。突然必死な形相になりここに居ない者の名前を呼ぶ。何が起こっているか分からない衣玖とルナサに、もしかしたらと気がついた雷鼓が二人に説明する。

「早苗は…遠距離でもみのりんと会話が出来るんだ。反対にみのりんからも出来る。多分、みのりんが何かあって早苗に連絡を取ってるんだと思うんだけど…」

 

どう見ても、普通の事態ではない。それはこの場の誰もが分かった。

「…仕方ないわ、ちょっとこっちにきなさい、話はそれからよ!…できない?は、何でーー」

一瞬、声が途切れる。次には、先ほどの荒声ではなく、静かな、しかし震えた声に変わっていた。

「…あんた、何で割り込めるわけ…?…いや、愚問ね、穣子がこっちに来れないの、あんたが押さえてるのね…」

「…第三者…?」

周りには早苗の声しか聞こえないので、推測するしか出来ないが、『あんた』という新たな対象が生まれていたお陰で、少しずつ状況が把握できてきた。

「…ちっ…皆っ、ついてきて!走りながら状況説明するから、早く!」

嫌な汗をかきながら、慌てて宿を飛び出す。残りの仲間も、それに続いた。宿の客や冒険者も居たが、それを気にしている場合ではなかった。

 

 

 

「…全く。よりによって、同族だっただなんて…」

「確かに巫女は、神をその身体に降ろすことができるわ。その力は物理的な干渉はありえない。…けど、」

「同じ性質…”神”同士なら、それは容易に行えてしまう。」

神というのはあちこちで性質が違う。この考え方が通用するのは、向こうも東洋の生まれであるからこそ。しかし、それではどうしても一つの疑問が生まれてしまう。

何故、穣子が、彼女の霊力ー神が持つ魔力的概念ーを感じ取ることができなかったのか。

「…不思議そうね。…私も、もう分からないのよ。自分が一体、何であるのかが、ね。

貴方が私の霊力を読めないってことは、多分もう、あそこの国の紅葉の神ではなくなってしまってるわ。小さな神から、何か得体のしれないものに…もう、神と名乗っていいのかさえも分からない。」

「…?」

ふと、憂いのようなものを感じると同時に、不思議な親近感が沸いた。

その正体が何かは分からないが、何か、自分と近いもののような、不思議な感覚がしたのだ。

「ねえ。」

その正体が分からないまま、唐突に尋ねられる。

「穣子ちゃんは、これがほどける?」

そう言って足下を指さす。それは今もなお、自分にまとわりつくびくともしない蔦。

それに自分が干渉しろということか。神と巫女、あるいは神同士の会話とは違い、こちらは全く同じ性質を持たない神でない限り、その技は難しい。魔術の類は同じ力である故に、相手の術式や仕組みを分かってしまえば干渉を望むことができる。

が、神の場合は力に性質がある。水の神がどれほど火を起こそうとしてもできないのと同じで、もたらすことができる力は決まっている。

逆に言えば、干渉できるということは。

「…?」

同じ性質である神であるということ。

少し力を込めて押さえてやれば、思いの外簡単にその蔦を押さえることができてしまった。…同じ豊穣神であるのだろうか。でなければ、納得がいかない。

「…よかった。私はまだ、名乗っていいみたいね…ありがとう。」

もう、言動の訳が分からない。リューンを離れろから始まり、足を絡められ、ほどくとお礼を言われてしまう始末。一貫性がないから余計に考えが読めない。

それどころか、同情のような感情の芽生えすら感じる。何故か、始めに思った、あの不気味な感覚がすっかりなくなってしまったのだ。

「…あの、さ。一体、君は何なの?いや、正体っていうか、その…」

何かが聞きたいのに、何が聞きたいか分からない。多分、一番近いのは『目的』なのだろうが、果たして本当にそうかと言われると、違う気がする。

ただ、何か自分と近いものを感じる。それがどの点なのかは分からない。分からないけれど、何となく、どこか、似ていると思ってしまうのだ。

「ーー穣子っ!!」

自分が呼ばれる声を聞いて、ハッと我に返る。振り返ると、早苗や衣玖達が必死になってこちらに向かってきてくれているのが分かった。

「…?あの姿、もしかして…」

「そこのあんたね…穣子に何かしようとしたのは…!」

間に入り、黒いローブを纏った彼女に向かって短剣を振るう。チッと舌打ちをすると同時にひらりとそれを避け、大きく後方へと跳ねた。

「…貴方は、彼女に仕える巫女ですか?」

「答える義理は無いわ。あんたこそ、何が目的だったのか、答えてくれる…?」

答えなければどうなるか。鋭い目線で彼女を射抜く。相手は動じていない様子だった。

「さ、早苗っ、ちょっと待って!」

静止の声を投げかけるのは穣子。しかし、早苗はそんな声は聞こえないと言った様子だった。ただ自分の得物を握り、ギッと相手を目に映す。

数歩、衣玖が前に出る。早苗と並ぶような位置にたどり着いて、冷静に、低めの声で言った。

「…張り紙にありました。黒いローブ、小柄な体格、女…自警団に追われている身だそうですね。

穣子、貴方は彼女に何かしらの思い入れを抱き始めているようですが…信用してはいけないと思います。」

衣玖も並んで、剣を構える。しばらく睨み合っていたが、やがて、

「…信じてもらえるかどうかは分かりませんが、少なくともそれは嘘の張り紙です。

私は何も追われるようなことをしておりません。」

何も恐れることなく、冷静に、そう言った。

その言い方が余計に早苗と衣玖にとっては嘘のように聞こえたのか、聞く耳を持たずに己の得物を振るう。あまり相手は俊敏ではないのだろう、避けきれずに、いくつも体に刃物をかすめていった。

違う、彼女は本当のことを言っている。何故かと聞かれると分からないけれど、何故かあれが真だと分かる。何か、違和感がある。

雷鼓とルナサも気づけば加勢していた。このままではいつか、彼女が先に倒れてしまうだろう。分かっていたけれど、止めるための言葉が足りない。

問答無用で、切り裂かれた布切れが宙を舞う。

「ーーあ。」

正体が、分かった。

根拠となる、事柄の。

 

 

 

 

 

これ途中で話途切れさせれなかったから、かなり中途半端に切りました。宿出る前だとくっそ短いの!

そしてやたら加入話が長くなってしまってる。そろそろ終わらせたい。本気でそろそろ終わらせたい。