キバリんとつらねちゃんとのリレーです。
12話→ http://sakura29.hatenablog.com/entry/2014/03/27/192846
「さてと、どこから説明すればいいものかしらね。」
早苗は穣子と静葉のスペルカードを服の中に入れる。狼に襲われても、それ自体は発動できる状態にあった。
しまうと今度は自分の袖からか針、衣玖に近づいてからどこからか白い糸を取り出す。恐らくボロボロになった穣子の服を縫い合わせるつもりなのだろう。原型などほとんどなく、血で真っ赤になった挙げ句にまだ生暖かい。常人では触ることすらためらいを覚えるだろう。
「…あの、その前に一つよろしいですか?」
「ん、何?」
「…血が凄いことになってますよ。」
早苗はそう言われて自分自身を見つめる。何も気にせずにそれを扱っていたので、服には致死量を彷彿とさせる血がついていた。
自分のものは一つもないが、何も知らない者が見ると心配するか、逃げ出すかはするだろう。
「そうねー。帰ったら奇跡の力で綺麗にしておくわ。」
『ただのご都合主義とも言うけどね。』
明るい穣子の声は、表情こそ見えないものの、どんなことを思って、どんな風に考えているかがよく分かる。自分の体を乱雑に扱われても、特に気にしていないようだ。
心が広いというか、あまりにも気にしていなさすぎるというか。神である彼女は、ほとんど執着がなかった。
それが以前に早苗から言われたことによって気にかかり、思わず少し顔をしかめた。
「で、よ。まず何が起こっているかを説明するわ。見ての通り、妖夢…正確には違うのだけれど。それが襲ってきたわよね。」
「えぇ…あれは何だったのです?ドッペルゲンガーというものでしょうか。」
「そう。それも、かなり特別なタイプのね。」
ドッペルゲンガーについては博学な穣子が説明をしてくれる。
それを見たものは死ぬだとか、死ぬ直前に見るだとか言われていて、本人を乗っ取るタイプや、ドッペル自身が誰かに化けるタイプ、自身の影から生まれるタイプと、様々なものが存在するらしい。
『今回は…多分、一番近いのは3つ目のやつかな。』
「質問です、どうして見てもいないのに分かるのですか?」
「あたしに聞かれても。」
「貴方ではありません。」
早苗の方を向いて言うものだから、早苗は分かっていて反論する。同時に、頭の中でくすくすと笑う穣子の声が聞こえた。
『どう感じても、あれは悪霊だったからね。神は汚れには敏感って言ったでしょ?だから、あれが悪霊だってすぐに分かる。妖夢の半霊は浄土のものだからそんなものはなく、純粋な綺麗な幽霊。』
「そしたら、あれは何か?」
口に手を持ってきて、色々考えながらそう答える。対する早苗は待ってましたとばかりにバッと手を挙げて、
「惜しい!5早苗ちゃんポイント!」
「あっちゃーグレイズでしたかーって!何ですか早苗ちゃんポイントって!?」
「正解したら貰える早苗ちゃんポイント。100ポイントで衣玖さんのパンツをプレゼント。」
と言って、何か白い布をひらひらさせて見せる。それを見て、衣玖は恐る恐る太股付近に手を持っていき、
「……っ!?」
「で、そのドッペルなんだけd
「その前に返せ!!」
全く、いつの間に取ったのか。夜と怪我をしてあまり動けないのをいいことに、早苗の窃盗スキルはやりたいほうだいである。
「100早苗ちゃんポイントたまったらね。で、影っていうか…半霊の心の闇の部分、とでも言った方がいいかしら。」
「…半霊に心なんてあったのですか?」
『幽霊だかんね。何か思うことがあったんだろうね、きっと。…それが具現化して、妖夢みたいな見た目になった。』
仮説だけどね、とその後に一言付け足す。少し不思議に思うところがあるらしく、曖昧に衣玖は首を縦に振った。
「次に第二問!誰に対しても三枚おろしにしようとしてくるドッペルちゃんですが、みのりんやあたしに対しては攻撃してきませんなーんでだ!」
そのギャグ調の問題のだし方はなんとかならないのかと思いつつ、再びの疑問。
「…え?そう、だったのですか?」
『やっぱり気がついてなかったね。……』
守る必要なんてなかった、そう言いかけて途中で言葉を飲み込んだ。衣玖を傷つける、その思いもあったがもっと別の方向に理由はあった。
純粋に、守ろうとしてくれたこと。それがなによりも嬉しかったから。だから、彼女の行為を否定することはできなかった。
「ごめんなさい、全く。えぇと…理由は…穣子も早苗さんも、神で清らかな存在だったから?」
「半分合ってるわね。25早苗ちゃんポイント。」
喜んでいいのか全く分からない。
「ほぼ確信していいと思う。自分を浄化してほしいために、それができる神には攻撃しない。他のものには自分の存在をしらしめたかったから、手あたり次第襲って自分の存在を植え付ける。…妖夢の善行を否定するかのように、ね。」
「自分の存在を知ってほしくて、けれど、止めて欲しい…そんな、矛盾しているけれど、確かな想い。間違っていると分かりながらも、その行動をやめることはできない…そんな、ジレンマ、ですか。」
「推測上そうなるわ。10早苗ちゃんポイント。」
腑に落ちるような、落ちないような話である。
行動そのものは矛盾している。自分は忘れらる、妖夢の人間部分しか見て貰えない。それが羨ましくて、憎くて、思わず焦がれてしまったその欲に手を伸ばす。
間違っていると分かっていても、得たいものがあったから。
「……ん?」
ここで、また疑問が。
それはあのドッペルや幽霊のことではなく、穣子自身への疑問。
「はい、次の質問は?」
「穣子、一つ聞いてもいいですか?」
『なぁに?』
ここで、穣子は自分の失態に気がつくことになった。
「貴方、『成仏しない幽霊は汚れたアンデット同様』って言ってましたよね?なのに、どうして妖夢さんの幽霊は浄化させてもいいのですか?」
『…あー。』
「…嘘をついておられましたね?」
嘘を付いてたことを忘れていた、というような間抜けな声。穣子にしては珍しい失敗である。
本当のことを話そうかどうか戸惑ったが、隠し通すのは困難だろうと思い、少し恥ずかしそうに答えた。
『…あんまり大事だと思って欲しくなかったんだよね。幽霊が居る、ちょっと数が多いだけ。その程度の構えで居て欲しかったんだ。
怨霊がばっこしてて、汚れが酷くて居るのだけでもかなり辛い。強いのなら一匹だけでも辛いし。で、中心にはそんなのが居て、他にも汚れが酷い幽霊が居る…なんて言っちゃったら、間違いなく衣玖さん、あたしを帰らせるでしょ?』
「……」
「…えーと、みのりん?」
多分、早苗の中に入って、彼女の真理としているものを直に感じているせいなのであろう。隠しておくべきものがボロボロ見えている。
正直な彼女の性格のせいか、嘘をつくのがとても下手くそになっている。いや、実際早苗自身は嘘をつくのがなかなかに上手いが、人の精神を媒介とすることで穣子の性格に無意識に小さな影響が出ていた。
そしてそんな本人はやらかしたと思うのに時間がかかるほど。
「…そんなに、無理をしてなさったのですね…!」
間違いなく、琴線に触れた。また一人で無茶をしようとした。
相談してくれなかった、またあのときのように自分だけで解決しようとした。そんな気がして、ついに耐えられなくなった。
パァンッ!!
「っ!!?」
「いつも…いつも言っているでしょう!一人で無理しないで、もっと私たちを頼ってと!!」
『衣玖さん!?』
穣子がオロオロした様子で何かを言おうとするも、衣玖はいっさい聞く耳を持たない。
…おわかりいただけただろうか。この今の、どうしていいか分からない状況を。
「今回もまたそうするつもりだったのです!?結局…私は頼りないですか!?私では、貴方を支えることはできませんか!?私では…私ではっ……!!」
再び涙ぐむ衣玖。いつもならこれで、胸を打たれるのだろうが…
今回ばかりは、戸惑う穣子の声。
『あのー…すっごく言いづらいんだけどさぁ…』
「…何ですか。」
『今殴ったの、早苗だよ?』
「…え。」
冷静になって、目の前の人物を見つめる。
確かに穣子は早苗に入っている。しかし、精神としてしか存在彼女にとって、痛覚という概念はない。
つまり、今殴ったのは。
「…ナンデナグラレタノ?」
痛む頬を手で押さえ、理不尽を訴える瞳で衣玖を見つめる早苗。
そう。早苗、しか殴っていない。
「うわぁぁあああぁぁぁああすいませんでしたぁぁぁぁああああぁぁあっ!!」
頭を地面に打ちつけんばかりのローリング土下座。お前怪我はどうしたのかといわんばかりの激しさがある。
スイートポテトルームを張ってもらっていなかったら完全ぱっくり割れをしている。
「うわぁぁああん衣玖さんのいくじなし!もう知らない!!」
「うわそれどっかで聞いたことあるって、今のいくじなしもへったくれも何でもないでしょう!!ただの悲しい事故だったんです!!」
「そうやって言い訳して…本当はあたしのこと嫌いなんでしょ!!」
「違います!だからこれはただの事故で!」
勿論本気の口論ではなく、からかいだと分かっているので、穣子はくすくす笑いながらも、少し暖かいものを感じていた。
「…あら?みのりんどうしたの?」
『ううん…いいなぁやっぱりこういうのって、思っただけだよ。』
その言葉が何を意味しているのか。衣玖にはよく分からなかったが、当たり前でしょ、と早苗は短く返す。
その顔はとても優しい表情だった。
「…さてと。衣玖さんも土下座できるくらいに元気になったし、そろそろ行きましょ。」
立ち上がり、スカートをパンパンと払う。いつの間にか穣子の服はきれいに縫われていた。
ただものすごく血みどろで、もう一度着たいとは絶対に思わないが。
…あれ、そういえば。
「…結局、アレは?」
「…あぁ、そもそも返す気なかった。」
そう、彼女の手に持っている白いそれは、一本の糸を出してとても小さくなっていた。
その後、衣玖さんの大きな怒鳴り声が森に響いたが、それはまた別のお話である。
4000字ぴったり!!
(以下必読)
さてと、ここで3人の外見、状態についてまとめておこうか。
☆穣子
・姿は外になく、早苗の中に『精神体』として入っている。実はすでに外に出れる状態(出たら素っ裸だけど)。
・服は早苗さん持ち。どっこも血みどろ。月の光が反射してやや見えやすい(ただし森の中だとあまり光が差し込んでこないのでそうでもない)。
・よく見ると服に不自然な縫い目が見える。かなり目利きが利かないと分からないくらいの微妙さだけど。
・汚れによるダメージ中。
☆衣玖さん
・両脇腹からそこそこの出血、左肩からかなりの出血、右腕に違和感。少し砂埃が目立つ。
・左肩は激しく動かすと傷が開く恐れ。脇腹は大丈夫(傷跡はある)。右肩は次回こちらが書き終わった時点で完治(予定。無茶したりもっかり損傷したりしたら別)。
・ノーパン。
・勿論脇腹と左肩のとこは破けてます。
☆早苗さん
・胸からスカートにかけてかなりの血の跡(穣子のもの)。怪我はなし。
・汚れによるダメージ小。
☆その他補足
・早苗は穣子を体に宿している間は、霊力がかなり強くなっているので汚れの影響を受けない。また、早苗の性能がEXキャラ並に強化。あまり力を使いすぎると穣子に影響が出てくる。
なお、穣子を外に出すとこれらの効果は消える。
・スイートポテトルームは結界と同じようなもので、動きながらの使用は不可。
・衣玖さんの歩き方が何となく不自然。特に飛ぶことをためらう(バトル等の仕方のない状況は例外で)。
以上、なんかたくさん設定が後付けされたけど、よろしく(こいつ)!!
(以下お好みで)
後書き。
今回は話の繋ぎ。そろそろ皆で妖夢退治に行きますかい。…かなり設定をこっちで作ってしまった気がして申し訳ない。
わーい全員が血みどろになったよ!メディこんなのに出会ったら発狂しちゃうよ!フランとかは美味しそうってよだれ垂らすのかな。いや、神の血だから、神聖なものに弱い吸血鬼にはそーでもな…
…はっ!つらねちゃんとこのフランちゃんそういうの大丈夫だった…!!
と、あまり他の人のキャラを出すのはよくないな。こんなもんでストップストップ。
さてと。行動に早苗ちゃんが加入したわけで…早苗が入っただけでこのギャグっぷりな!!何これ怖い!!早苗すげぇ…お前すげぇよ…あの殺伐と、シリアスな空気を彼女一人でこんなにも変えてしまう…早苗さん怖い!!
おまけ。そのころの雷鼓さん。
雷「…お…おなか痛い…!!」
ア「うん…あんなもの食べるから…」
雷「だって!だってあれは衣玖がわたしを思って作ってくれたんだもん!残すことなんて出来ない!!」
幽「(フチに付いたものを食べて)…これは卵の殻と酸が反応して何か化学変化が起きた味ね。」
ア「何で分かるの!?」
レ「そして平気!?」
幽「何回うっかリスに食べさせられたと思ってるの!そりゃ慣れるわ!」
レ「慣れないでそんなものばっかり食べてたらお腹壊すから!!」