※これはつらねとキバりんの二人で行っているリレー小説です。
第六話→http://sakura29.hatenablog.com/entry/2013/08/20/193134
「さーて。この森で何が起こってるかは分かったんだけれどね…」
森の中で一番高い木の天辺に登り、疲れた様子で一つため息を付いた。
森に漂っている嫌悪な空気も、ここまで来るとかなり楽になる。ときどきここに来て休むことにしていた。
ただ、早く解決しないといけないという使命感も同時にある。
(…あたしでこうなるのよ。これじゃあ、みのりんは…)
一つ頬に冷や汗をかく。妖怪の山の森は、夏であるのに気味が悪いほどに寒かった。
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一方、穣子達はひたすら森の中を歩き回る。途中幽霊に出会ったりしているはずなのに、二人にとってそれは眼中に無かった。
紙に簡易的な地図を作る。それは記号化されていて、他の人から見ればただのミミズがはしったような落書きである。
「方角…そっちが北で大丈夫?」
「はい。これで大方の地形は予想されるかと思うのですが。」
上から衣玖が舞い降りる。彼女には星を読んで方角を確認してもらっていた。
分かったことは、北に行くにつれて高度が上がり、南に行くにつれて高度が下がる。
また、南西に行ったところに大きな崖があり、降りてみたところかなりの高さがあった。
それから、数本川が流れている。が、これは大した川幅ではない。しかし山の川ということもあり、流れる速度は早かった。
「…そうだね。こんなもんか…」
「…あの。そろそろ一旦休みませんか?顔色酷いですよ…?」
じっと穣子の顔をのぞき込む。心配性だなぁと苦笑を漏らすが、誰から見ても無事には到底思えない。
冷や汗は先ほどよりも酷く、体を震わせる。静かにすれば、荒い息も聞こえた。
「休んだからって治るもんじゃないよ…っと。それで、そこにいるの。いい加減出てきたら?」
「…!?」
穣子のその言葉に、衣玖は思わず身構える。しかし誰の姿も見えない。
そこで穣子は足下から手頃な石を一つ手に取り、茂みに投げ入れる。コンッと軽い音を立てて不自然に跳ね返ると、そこから銀髪の女の子が現れた。
それは、この二人もよく知っている人。
「よ、妖夢さんっ!?」
「…あれー、こんなところで何やってんの?」
穣子もこの正体は予想出来ていなかったのか、呆気にとられている。
その言葉に、妖夢は首を傾げた。
「…早苗、妖夢なんか連れてきたのか…」
「…?あ、えっと、妖夢さん。良かったら一緒に行きません?この森本当に幽霊が居ますし…一人では危険だと思うのですよ。」
「え。」
衣玖のその誘いに、思わず穣子が驚きの声をあげる。しかし、対する妖夢は首を振った。
「……」
そうですか、と少しがっかりする衣玖。それじゃ、行こっかと穣子が衣玖の背を押した。
妖夢に背を向けた、その刹那。
「ーっ!!」
「っ?!」
ぐっと穣子が衣玖をひっぱる。その直後、衣玖が先ほどまで居た場所には刀が振りおろされていた。
突然、自分の知っている者がおそってきた。その現実が脳内で受け入れられず、狼狽える。
が、穣子は最初から知っていたのか、焦る姿は一つとして見せなかった。
「…ダミーのダミーか…目的は?」
「……」
タンッ!
軽くジャンプをし、衣玖に瞬時に接近し、刀を振る。
状況が把握出来ていない衣玖はそれに気が付いても避けることができず、
「っ…ぅっ…!?」
「衣玖さんっ!」
急所は避けたものの、左肩に大きな傷を負う。衣玖は妖夢を強く睨みつけて訴えかけた。
「…待ってください!妖夢さん、何でこんなことを
「衣玖さんっ!それは妖夢じゃない!」
いきなり何を言い出すのか。衣玖は思わず穣子の方をむく。
その一瞬、妖夢は再び踏み込み、衣玖に狙いを定めて連撃に入る。予想ができた穣子は衣玖の手前に入り、妖夢の腹部をめがけてスペルカードを放つ。
「秋符『狂いの落ち葉』!!」
鮮やかな落ち葉に似た段幕が直撃し、大きく後方にふっとばされる。
姉のスペルカードだったが、早苗の様子を見て何かあると思い、姉に借りていた。お守り程度に考えていたが、意外と役に立ってくれた。
「…西に逃げるよっ!こんな中じゃあたしたちが圧倒的に不利!無策で勝てるはずがない!」
こくりと頷くと、ひるんでいる隙に西へ走り出す。いくら満月といえど、視界が悪いのには変わりない。
対して、向こうは幽霊であるせいか、そんなものお構いなしだ。刀を振るうのに木が邪魔になるかもしれないが、そんなもの彼女にとって障害物でも何でもない。
ただのおまけで切れている。そんなものだった。
「…走れるっ!?」
「そちらこそっ…」
ポタポタと血が地面に滴り落ちる。痛くても妖怪にとってはまだ軽傷の方だ。
対して穣子は外傷こそ無いものの、森の汚れのせいでかなり体力を消耗している。走れないとすると、俄然穣子の方だった。
背を向けて走り出す。しかし、すぐに追いつかれてしまう。
「早い――!!」
「あたし達が遅いだけだけどね!」
しかし、実際に彼女は早かった。二人の足が遅いことも相重なり、その距離はすぐにゼロとなる。
素早く暴れる刃物。辛うじて避けるものの、何度も身を掠め、あちこちに小さな傷が出来た。
「…?」
その中で、穣子は一つの違和感に気が付く。
その刹那の納得。小さく、誰にも聞こえない声でぽつりとつぶやいた。
「成る程…目的はあたしで、衣玖さんは邪魔者、か。」
刀を振るい、掠め、距離を詰める。
その繰り返しだったが、狙ってくるのは衣玖の方だけだった。
何を目的に。彼女にはそれが分かった。
分かったけれど、どうすることも出来ない。
一人だけでは、彼女の欲…いや、願望を叶えることが出来ない。
けれど、逃げなければ衣玖は間違いなく助からない。
「…っ穣子…先に逃げてっ…!」
くるりと向きを変える。襲ってくる銀髪の少女に対し、戦闘体勢を取った。
逃げてばかりでは、二人ともやられるとでも思ったのか。
「ばっ…!何やってんの!?」
妖夢の刀をドリル状にした羽衣で受け止める。高く飛んで、下に向かって一つの弾を飛ばす。
「電符『雷鼓弾』!!」
その後を負ってきた妖夢に打ち出された雷の弾がぶつかると共に、四方に電気が流れる。
地面に強く叩きつけられる音がし、当たったと確信した。
が。
「…っ!?」
牽制し、地面に着地したのが正しかったのだろう。すぐに飛び上がり、鉛色の刃物が衣玖を襲う。
予想していなかった彼女の動きに対応出来ず、辛うじて身を翻すも脇腹に刀が食い込んだ。
「くぅっ…!」
「実符『ウォームカラーハーベスト』!!」
空中で頂点に達し、その一瞬動きが止まったと同時に穣子も飛び上がって妖夢に段幕を放つ。
すぐに刀を乱暴に引き抜き、その段幕を避わす。衣玖に当たらないように計算されていて、落ちてきたところを穣子が受け止める。
霊力を使い、一瞬だけ自分の力を引き上げる。地上に下ろすと同時に、その力を止めた。
しかしその同時に再び妖夢が踏み込み、刀を振りあげる。
「っ!」
地面を転がり、右に避ける。が、
そこにあったのはもう一本の刀。忘れていたわけではないが、先ほどまで一本だったため考えていなかった。
「ぐっ、あ、ああぁっ!!」
もう片方の脇腹に深く刺さる。傷から、口から大量の血がこぼれる。
乱雑に刀を振りあげ、とどめを刺そうとする。
「豊符『オヲトシハーベスタ』!」
その目の前に穣子が現れ、至近距離から放たれる段幕。
その弾を切り、避ける。一つとして当たらなかったが、それでよかった。
単純な目くらまし。相手が避けている間に、再び霊力を使って力を底上げし、衣玖を抱きかかえて後方に飛び、再び逃げる。
「…穣子…そっち…は…」
「わかってる!ちょっと黙ってて!」
間に合うか間に合わないか、ギリギリの賭。
ヒュンッと刀の音が近くでし、一本の木が倒れる。その木を避け、たどり着いたのは…
「…ふふっ、この鬼ごっこ、あたし達の勝ちみたいだね…!」
スピードが遅くなったのを見計らい、大きく横になぎ払う。それを見切って、後方に飛んだ。
後方、そう、
「…暗い夜は、足下にご注意を。」
――崖の谷間へ。
その声が聞こえた瞬間、妖夢は姿を見失う。
が、そのしばらく後に聞こえた大きな衝突の音。それで、彼女らがどうなったかは容易に想像できた。
「……」
何も言わず、背を向ける。
血の付いた刀が、残酷な色を帯びて輝いていた。
せんせー、空気の読めないわんこが皆ギャグ書いてる中でバトル書いてまーす。
雷「ちょっと衣玖、妖夢ってやつころころしていいか?」
衣「ダメです。」
雷「じゃあぬっころ。」
衣「同意語でしょう?」
3307文字!学校の行き帰りで書いたっ!!
というわけでネクストキバリンよろしくっ!
おまけ(というか、感想?)
何ていうか、すっごいバトルモノ書く練習になった!ここまでバトルバトルしたもの今まで書いたことなかったわ…
バトルの描写、SEADN様(こんなスペルだったか?)みたいにスピード感を出せるようになりたいな。バトル描写はあの人を一番尊敬する。
そして。やっぱり重傷いいね(( !
あと思ったのは、雷鼓さん携えてたら展開絶対変わったんだろーな。早苗側に居ても面白かったんだろーな。こう、劣勢になってるところにすかさず割って入って撃退する雷鼓さんとか。
残念ながら書き始めたのが輝針城の製品版発表前だったからな。でも犬的にはこっちの展開が書きたかったので満足。