※これはつらねとキバリんとのリレー小説です。
第3話→ http://sakura29.hatenablog.com/entry/2013/08/14/155043
19時を知らせる鐘が部屋に鳴り響く。少し前に日没を迎え、それと同時に月が昇り始めた。
それもそのはず、今日は満月。満月は太陽が西に沈むのと同時に東の空に顔を見せる。それ以降は50分ごとに遅くなり、新月は太陽と同時に昇るため、沈むのも一緒である。
その月の満ち欠けが今何に影響するのか。それは二つある。
一つは妖怪たちの力が一番向上する夜。人間に毒のその光は、妖怪にとっては糧に近い。
それと、もう一つ。
「やーん、けーねもっふーい。」
「ばっ、さ…さ、触るなっ!!」
慧音さんがモフくなる。とてもとてもフッサフサになる。
「あぁ…今日満月だったもんね。いい感じに白沢化しちゃってるねぇ…」
どこか苛立ちを覚えている穣子の一言。無理も無い、絶賛片思い中の彼女にとって、そのリア充のやりとりを見るのは人間にとっての満月と同じで。
いや、この場合もっとタチの悪いものかもしれない。
「あっ、魔理沙!鐘が鳴ったね!」
「そうだな!よし、いっぱい遊んでやろうなっ!」
「さっすが魔理沙!うん、楽しみにしてるよっ!皆脅かしにかかって…ふふっ、」
「脅かし返してやるZE☆」
そう、二方向でこのリア充のやりとり。どうしてこんなものに参加してしまったのか。一人で動いた方が早かったのではないか。
そりゃ、衣玖さんとせっかく二人きりになれるチャンスかもしれないけれど。それでもそんなことやってる暇なんて多分無い、ていうか絶対無い。
「…っいたい…社交辞令って…かってるけど…」
「あのー…穣子さん?」
親指の爪を噛んで今にもパルパルと言い出しそうな彼女に、衣玖は思わず肩をトントンと控えめに叩く。
ていうかお前等早く行けよ。
「ほ、ほら…は、始まる合図あったし…い、いい、行かなくては、な、な?」
挙動不審の慧音。それに対し、フランと魔理沙が言われなくてもと、箒に乗ってさっさと行ってしまう。
妹紅もはーいと尻尾に顔を埋めながら返事をする。どうやら出る気は無いらしい。
「さてと。こっちも行きますか。」
「切り替え早。…そうですね、あちらを待たせるのは悪いですし。」
そう言って、穣子と衣玖もその場を後にする。その後に慧音と妹紅も移動を始めたが、妹紅のせいでとても歩きづらそうだった。
・
・
「…よし、皆来たわね。」
驚かせ役の一人、早苗が森の木のてっぺんから6人がこちらに来る様子を伺う。夜目が効く彼女はこんな場面でとても調査役として重宝する。
(…しっかし。これは酷いわね…)
それは、また別の、この肝試しの裏にあるもう一つの目的。
紫が何を頼んできたか、それは森に着くとすぐに分かった。
直感とはまた別の不快感。何かがこみ上げてくるような嫌な気分がねっとりと彼女にまとわりついた。
最も、他の人たちはそんなこと無いようだが。
「早苗さーん、こちらも準備いいですよー。」
鈴仙の声。それに了解と短く答えると、その木から飛び降り、地面に着地した。
しかし、その際に少しだけふらつく。それに気がついた者はこの場には居なかった。けれど、その深刻さは本人が一番分かる。
「…何か分かりました?」
ぼそりと咲夜の声。本人は裏事情をしっているので、素直に分かったことを伝える。
「そーね…一言で言えば。この森は…」
汚れが酷い。その意味が分からず、首を傾げる。
「…あんたには分からないでしょうけどね。でも気づくでしょ、そこいらにうようよ居るもの。」
例えばほら、とある一方を指さす。そこには本物の、
「ギャァァァアアお化けぇぇぇえええええっ!!」
「…メディさんですね。」
「いや、う、うん、そーなんだけどそーじゃなくて。」
早苗が言いたかったのは、この森に大量の幽霊が居ること。その指先に、偶然にも幽霊を見てしまったメディスンがびぇぇええと泣いて鈴仙に抱きつく姿があっただけで。
指さしたのはそれじゃない。あんたらじゃないんだって。
「はいはい、大丈夫ですよー。」
「うぇぇえええんっ…鈴仙さん怖いよぉぉお…」
じっとそれを見つめ、ポンと手を叩く。
「なるほど、エウレカ役でしたか。」
「誰が引っこ抜いたら叫ぶ植物か。そんなのピク○ンだけでいいわ。」
叫ばない、のツッコミが来ない。この場にボケしかいないせいで、何とも歯がゆい気持ちになる。
「えぐっ…えぐっ…さ、早苗さんっ…お、お化け居ないってのは嘘だったの…?」
その質問に早苗は腕を組んで、真面目に考える。しばらく経って、やっと答えた一言は、
「お化けは居ないけど幽霊は居る!」
「お化けも幽霊も一緒だよ!!」
「いえ、お化けと幽霊は違いますよ。お化けというのは一般に、」
「いいよそんな詳しい解説!」
そうですか?のきょとんとした咲夜の顔。それに苦笑する鈴仙と、どうしたものかと困る早苗。いつもなら笑い飛ばすポジションなのだが、今回は真面目にそういうわけにもいかない。
と、ここで一人存在が消えていることに気がつく。
「…あれ?こいしは…?」
「あぁ、あのお方はいつも自由人ですから。」
多分、妹様のところか放浪に行ったのでしょう、そんな咲夜ののんきな声。
その刹那、遠くの方で何かが動く気配に気がつく。早苗にしか分からなかったが、何か異様なまでに大きな何かが動いた。
それが悪寒となって、早苗を襲う。
「…もういいわ。各自自由解散。適当にやって。」
「急にぞんざいに!」
鈴仙のツッコミを無視して、早苗は闇夜に溶けていった。メディはようやく少し落ち着いたらしく、しゃくり泣きにまで収まっていた。
「そうですねぇ…でも、メディさんがそんな調子ですと、私たちはまとまって動いた方が良いかもしれませんね。」
「…こ…こーなったら…」
「こーなったら?」
「皆を死ぬほど驚かせてやるーっ!」
ヤケクソになった彼女の一言は、何となくどこかの唐笠(からかさ)妖怪を彷彿とさせる。
ちっちゃいその体で結構恐ろしいことを言うが、目尻に涙を溜めて震えながら言うもんだから説得力の無いのなんの。
「そ…そうですねぇ…では行きましょうか。」
「いざとなれば、私が時間を止めて何とでもできますしね。」
「それ反則ですよ!」
「生き埋めとか。」
「死ぬほどびっくりしますけど同時に死にますそれ!あじゃぱーしてやられたぜって言う前にゲームオーバーですそれ!」
と、こんなやりとりをしている間に森に入ってくる者の気配に咲夜が気がつく。声を小さくして、本格的に驚かしにかかることにした。
「久々ですね。こうして二人っきりになるのも。」
衣玖のその表情ははっきりと分からなくても、どこか嬉しそうだった。大人びた彼女の中にある控えめな恋心。それに穣子は気がついていない。
その反対に穣子もそれを抱いているのに、衣玖はやはり気がついていない。このじれったいカップルに果たして進展はあるのか。
…と言っても、穣子はそれどころじゃないといった様子を見せる。
「…っ…ぅ…」
「…?どうされました?」
「…へ?…何か顔に付いてる?」
必死に調子の悪そうな様子を隠そうとするが、相当辛いらしく、無理をしているのが衣玖でも分かった。
冷や汗をかき、軽く体を震わせる。神である彼女がこのような様子になるのは何か理由があるのだと思い、不安そうに尋ねた。
「…具合、悪いのでしょう?先ほどからずっと無理をなさっていたのです?」
「あー…いや、そうじゃないんだけど…」
伝えようか伝えまいか考える。森の中をゆっくり進みながら、彼女は衣玖に話した。
「…この森、本当に幽霊が居るんだよ。」
「分かるのですか?」
「まぁね…神は穢れを嫌うから…こうも露骨だと簡単に分かるよ。」
成仏しない幽霊は汚れたアンデット同様。けれど、この場を離れれば元に戻るし、命に関わるものではないとそう伝える。
「そう…ですか。…けれど、あまり無理をしないでくださいね?」
心から心配してくれている表情。それににっこり笑ってありがとうと一言。
しかし、穣子は少し嘘をついていた。
(…ま、本当は真逆なんだけど、ね)
そう、純粋な幽霊は浄土に近いものとして、逆に清らかなものである。故に、穢れを嫌う神にとっても無害なもの。
では、何が神に影響を与えているのか。
それは、汚れの溜まった、いわば怨霊。恨みを溜め、狂ってしまった哀れな幽霊。
その存在は、神の体を蝕み、霊力を奪っていく。
一つ一つの幽霊の力は小さい。けれど、この森のどこかに。
ー…早苗が伝えようとしていた、今回の事件の『核』がある。それが、どのような形で存在するかは分からないが、確実にこの森に…
「…まずは地形調査か。ちょっと歩き回るのにつき合ってね…?」
「えぇ…」
霊力の強い早苗にとっては少し不快感がする程度で済む。
だが、幼い力の無い穣子にとって、ここはまるで毒の沼に沈められている、そんな感覚に等しかった。
3516字!一時間で書けたわ。
ごっめんねーその日のうちに続き出すとか最低なことしちゃってー★(こいつ反省していない)
というわけで、ネクストきばりんよろしくっ!
おまけ。犬の感想&呼び方
個人的にけーねさん動かすのが結構楽しかったりします。あとさくちゃんもなかなかに使いやすいかな。
そしてごめんねこいし。君の存在消えてた。途中で気が付いたからごまかしたけど。
実はみのりん、最初は眩暈程度だったんです。早苗は何ともないって感じで。
でも何かね、弱いなって思って、気が付いたらこんなに重症化しちゃったのよね。
あと、驚かせ役は皆で自由に動かしてくださいbあとこっからは自分とこの看板娘ちゃんを主要に動かしてね。
呼び方の件。
犬得の三人は簡単ですよー。
みのりん→衣玖だけさん付け、他呼び捨て
衣玖さん→穣子だけ呼び捨て、他さん付け
早苗さん→穣子だけみのりん、他呼び捨て