犬小屋という名の倉庫

主にうごメモ、写真を乗っけるように使います。主に使うブログはこっちじゃないです。

リレー小説 ⅩⅨ

本館はちょっと違う話やってるからね。

やったぁあああ19踏めた衣玖さぁぁああああ((ごめんなさい

18話 http://sakura29.hatenablog.com/entry/2014/07/23/162740

 

 

 

 

『早苗…来るまでの時間は。』


「…4…いえ、3分ってとこね。」

時間は残されていない…というより、どう考えても足りない。今こうして意見を出し合っている間にも、あの哀れな半霊は近づいてきている。その差をわずかにでも縮めようと走り出すが、余分に稼げて30秒といったところか。

「け、結界を作るのにかかる時間は…」

「強力なのを用意するから…みのりんの力を借りたとしても、15分はいるわ。それも、2畳が限界。ただし中に留めるのは1分で大丈夫よ。それも、総計で、ね。ってことで、時間稼ぎ、頼めるかしら。」

『……』

行かせたくない。多分、穣子の本心だろう。信頼していないわけではない。ただ、力の差を見せつけられている以上、その間持つか、分からない。

しかし、この場で時間稼ぎができるのは衣玖しかいないのが事実。途中から他の仲間が気が付いて彼女に加勢するかもしれない。でも、それはいつになるか分からない。

その間に、衣玖が傷つき、最悪死ぬかもしれない。だからこそ、穣子はその一言が、本心が言えなかった。

「…穣子。」

対する衣玖に、恐怖心は無かった。自分がどうなるか分からない。まともにやり合って勝てないのは分かっている。

それでも、守ってくれた、愛しい人を今度は守りたいから。

「行かせてくれますね?」

『…全く、いつの間に君はそんなにバカになったんだか。』

やれやれと、ため息をつく。少し嬉しそうなトーンで、

『…行ってらっしゃい。待ってる。』

それだけを、言った。

その一言を聞くと、くるりと走っていた方向を向く。行ってきます、そう小さな声を二人に託し、森の闇の中へ消えていった。

「…大奇跡『八坂の神風』遅効性バージョン。戦い出すと同時に発動するようにしといたわ。さっ、あたし達もグズグズしてられないわ、さっさと終わらせるわよ!」

『早苗。』

脳内に響く声が、こちらも何かしらの意志を抱いたように、強く呼びかける。

『何があっても、成し遂げてね。』

「…勿論よ、あんたにとっても、あたしにとっても、あの人はかけがえのない妖怪だもの!」

皆の気持ちは変わらない。

その想いを抱いて、風と豊穣の神は霊力を込め始めた。

 

 

逆走して本当にすぐだった。

「…!雷符『雷鼓弾』!!」

目の前からやってくる陰に、雷の玉を発射する。向こうのスピードから回避は不可能だろうと思ったが、そうは行かなかったようだ。

「……」

「…刀を避雷針にして避けましたか。やはり分が悪いのは私の方ですね。」

自分の前に投げられた刀を見つめてぽつりと呟く。発弾と同時に手前に投げ、地面に刃を突き立てて自分への直弾を防いだのだろう。持ち主はそれを乱雑に引き抜くと、構えてじっと緋色の妖怪を射抜いた。

殺気。合わせれば、殺されてしまいそうな。それでも逃げることなく、その瞳を睨んだ。

刹那、動く。素早く振るわれる鉄の塊を、衣で受け止める。キィイインと、甲高い音が森に響いた。

「――っ」

もう一刀。体を捻って回避し、空いた横腹に一撃蹴りを浴びせる。が、予想されていたその動きは簡単に回避され、再び振るわれた。

受け止め、受け流す。倒す必要は無い、時間稼ぎさえできれば。しかし、受け止めてばかりいては、相手の攻撃が激化する一方。何とか隙を付いて一撃を入れようとするも、ことごとく回避されてしまう。

「…っ!羽衣『羽衣は空の如く』!」

大きな動作の攻撃が来る。そんな時、相手の体制を崩すためのスペルカード。無条件にひらりと武器をそれさせ、その背後に回り込む。一瞬の動きに、相手はついてこれない。

「魚符『龍魚ドリル』!」

その背後から、持っている羽衣で貫く。これは流石に避けられなかったようで、綺麗に背中に命中した。

吹っ飛ばされ、数メートル先で2、3回ほど地面に体をぶつける。普通ならば少しくらいは動けなくなるはずだ。

だが、

「…分かってましたが、やはり平気そうですね。」

ゆっくりと立ち上がり、再びこちらに向かって飛んだ。

痛覚が無いのか。そう錯覚させられる。殆ど効いていない様子で、流石の衣玖は苦笑せざるを得なかった。

「…っ!!」

「くっ……」

先ほどよりも鋭い。相手も少しばかりか本気を出さないとやられるとでも思ったのだろうか。

先ほどの強さで、まだ手を抜いていた方。絶望的なそんな状況。だが、屈するわけにはいかない。

(二度も同じ手は通用するとは思いません)

自分が空中に出て、得意な地形で対抗するか。一瞬考えたが、すぐにやめた。

とても追ってくるとは思わない。自分は彼女の獲物ではない、ただの邪魔物なのだ。

舞台上の姫を狙う盗賊に、騎士など居てもせいぜいやられ役でしかない。

だったら。

「羽衣『羽衣は時の如く』、」

盛大に、やられ役として、あがこうではないか!

「珠符『五爪龍の珠』!」

武器を羽衣で絡め取り、そこに強力な雷を流し込む。手を放さなければ、高電圧の雷に身を焦がすことになる。

ここでの衣玖の行為は武器を奪うことだった。厄介な2本の鉄の棒。それの、片方だけでも奪うことができたなら。

手放すしかない、そう、勝手な決めつけだった。

「な――」

衣玖の行動に反した。それは、常人ではとてもできないこと。

そう、構わず、押し込んだのだ。

「ーーっ!!」

身を貫かれる。とっさに回避行動を取ったので急所は免れたものの、深く左太股に刺さってしまった。

血しぶきが宙を舞う。激痛が走る中、それでも衣玖は

「至近距離なのは私もです!魚符『龍魚ドリル』!」

カウンターの如く、自身の武器で小柄な体を振り払った。

ダメージを与えるためのものではなく、あくまで強い衝撃を与え、引き剥がすもの。狙いは太股に刺さった刀だった。

「…ふ、ふふっ…これで貴方の武器、一つは奪いましたよ。」

だくだくと流れる血に構わず、それを引き抜く。尋常では無い量が溢れだした。

持っていても扱えないし、射したままではいずれ奪われる。

だったら。

「羽衣『羽衣は時の如く』。」

捨てればいい。

宙を、高く、高く舞う。暗闇に溶け、何処に落ちたかとても分かりそうにない。

探しにいっても、いかなくても、狙い通りだ。探しに行くのならその分十分な時間が稼げるし、行かないのであればその分戦力が落ちる。

「っ……!」

流石に逆鱗に触れたか。一本の刀を強く握りしめ、再び衣玖の方を向く。心なしか風が強くなり、木々がうるさくざわめく。

そんな中立つ少女は、まるで、鬼神のようであった。

(左足を捧げたのは流石にまずかったですね…)

とても動きそうにない。無理して酷使することは辛うじてできなくもないかもしれないが…何はともあれ、引きずるように飛ぶのが精一杯だ。

しかし森の中では、小型の生物にとっては有利になるだろうが、人間くらいの大きさになっては邪魔で仕方がない。

だが、移動手段はそれしかない。動かなければ、自分は殺される。

「っはぁああああっ!」

右足で、地面を強く蹴る。いける。何とか動ける。

刀と衣がぶつかり合う音が激しくなり響く。一つの音楽のように、美しく、鋭く、不気味に、森に響く。

時折響く雷鳴の音。戦の旋律は、激しく、高揚し、激化していく。

振るう、ぶつかる、避ける、鳴る、蹴る。

乱れない、その音が。

「――っ!」

ふいに、途切れた。

「……?」

半霊が大きく後方に飛ぶ。距離を詰めようとしたが、何か違和感がある。羽衣を構えたまま、じっと相手を睨みつけた。

刀を静かに構える。いや、静かながら、何か恐ろしいものを纏っている。一本の刀に禍々しい力が込められる。

何か、仕掛けてくる。多分、止められない。

なら、先に。

「龍魚『龍宮の使い遊泳

 

風が、強く、強く吹いた。

 


「……」

もしも、その場所を通る者が居るのであれば、その惨劇を嫌でも知らされることになるだろう。

「……の…りこ…」

半霊の、力というものを。

 

 

 


『…!』

不意に、嫌な気配を感じた。それは穣子だけでなく、早苗も同様だった。

近づいてくる。しかし、この場を動くわけにはいかない。作りかけの結界を壊すのなら話は別だが。

『…どのくらいできた?』

「そうね…3分の2は終わった…けど、どう考えても、」

間に合わない。すぐそこまで来ようとしている。一応正しい操作を施せば、途中の状態でも安定したまま放置はできる。ただ、あの半霊が見つけてそれを壊すことは大いにあり得る。

霊力にはまだ余裕がありそうだ。それなら、これを犠牲にする覚悟で、保存の為の手順を施してもいいかもしれない。

「…中断させるわ。大丈夫、すぐに終わ――」

る、の声は風に消された。

『…!』

「な、早い…!」

自分が予想していたよりも、それは何倍も早かった。

少なくとももう少しは時間があると思っていた。浅はかだと思う時間も与えない、抜刀され、赤く緋く光刃。

「…無理、ね。これ、中断できないのよ。」

流石の風の神も、こればかりは腹をくくる。

『…早苗。』

こちらを睨む。鬼をも震え上がらせる、冷たく、冷酷な瞳で。

とても、間に合いそうにない。

速い刃がゆっくりに見える。酷く、長いように思えた。

『…後は、よろしくね。』

「――!!」

穣子の、消え入りそうな声で我に返ったときはすでに事後だった。

気が付けば半霊は後方に吹っ飛ばされていた。夜目が効く早苗だからこそ分かったが、刀にはヒビがいっていた。

「まさか…穣子?」

術式は終わっていた。中断できる状態だ。

しかし、求めた声の主の返事が無い。

体が、重たい。

「…穣子…!あんたまさか…!」

ふと思い出した。彼女の言った、「何があっても、成し遂げてね。」という一言。

これは、この事態を初めから予想していたのではないか。

初めから自分は、神としての死を辿るつもりだったのではないか。

「…るさない…あんたは…あんたは絶対に…!」

先ほどとは別の風が吹く。優しくも、悲しい神風が。

その風には、実りの奇跡は無かった。

 

 

 

 

 

3932文字!私なんて殺したい症候群なんだろうな!!

因みに語ること多分ないだろうから、ここで。衣玖さんは死ぬような大けがを負いつつも、生きてます。みのりんが早苗の力を少しだけ借りて、『最期の奇跡』を起こしたといった感じです。ほっといても一応生きてますけど、血みどろで全身傷まみれでぐったり横たわっているので誰か救済してあげてください;;

え、起こしてなかったら?死んでます死んでます。まぁ…よかったね衣玖さん!

ちょっとはかっこいいとこ見せれたよ!みのりんの頑張りでものすごく曇って見えるけどね!!

あと早苗ちゃんや衣玖さん勝手に動かしてくださいね。もうそろそろ合流しないと書けないと思うので…あ、早苗瀕死にさせたい?どーぞどーぞ((

裏話をすると。衣玖さん取り逃がす設定だったので、初期案では瀕死になる予定なかったです。しかしそれじゃあ、ちょっと衣玖さんがほんっとーにダメな大人になっちゃうなーってことで、急遽。

まぁ、みなさんとこが強いので、私のとこはこうやって弱いを演じようということで。実際みのりんはボスキャラの中では最弱設定にしてますしね。忘れちゃダメよ!!

あと、これ。半霊ちゃん、喋るつもりで私いました(今回喋らせてないけど)wこの辺本当自由にやっちゃってね!

 


おまけ。そのころの雷鼓さん。

雷「うん?なんか妖怪の山の方が騒がしい?」

レ「あーそうね。何となく音が聞こえる気がするわね。」

幽「私には分からないわ。よく分かるわね。」

雷「私は耳には自信あるからな!それにしてもいい音楽だな…♪~(チンチンドンドン)」

幽「食器で遊ばない!箸でお皿叩かない!」

レ「でもこれ、リズム凄くいいわ…(ドンドンパンパン)」

幽「ちょっとレティあんたまでっ…ああもうっ、私もノッてきちゃったじゃないのー!!」

東方リプレイ1-7 『緋の風が妖しく輝き』

「…冒険者志願?マジで?」

面食らったように早苗は震えながらルナサに確認する。その様子に少なからず驚いたが、こくこくと首を縦に振った。

「あのっ…だ、ダメかな…?」

「いや、そーじゃなくって…どー見ても冒険者みたいな荒事するよーには見えなくて…戦えるの?」

それを尋ねると困った表情をする。多分、戦うすべは何も持っていないのだろう。そう言われて、彼女は早くも折れそうになった。

かに見えたが。

「…わ、私の武器…これ、だから…」

震えた声でそう言うと、持っていたヴァイオリンを構える。そして、演奏すると共に、

「ーー」

とても綺麗な声で、歌い始めた。

しかもそれはただの歌ではなかった。聞くと、不思議と力が沸いてくるのだ。夏の日差しのような、明るく力強い歌。この少女には少し似合わない旋律だったが、素晴らしいものであった。思わずその場に居たもの皆が感嘆の声を漏らした。

「…なっへそ…吟遊詩人ね…いやぁ、参ったわ。」

「あ、あのっ…確かに皆みたいに戦うのはできないけど…でも、こうやってサポートはできるからっ…だからっ…」

お願いします、と深く頭を下げる。ここまで来ると断るに断れないわけで。

「…仲間に迎えてやってはどうでしょう。きっと役に立ってくださると思いますし…何より、断る理由が分かりません。」

「わたしも賛成。…だけどさ。」

その逆説の言葉に、分かってると小さく返す。しばらく悩んで、何かを思いついたのか、手をポンっと叩いて服の裏側に手を入れた。

ごそごそと漁って、取り出されたものは一つの十字架だった。銀色に輝くそれを、早苗はルナサにつきだした。

「最終試験。これ、触れる?」

「っ…!!」

ただ、触るだけ。普通の人間なら何も思わずそれに触れることが出来ただろう。

しかし、彼女はそれから逃げるかのように後ずさった。手を伸ばそうとする素振りは見せるものの、それが出来ないといった様子。酷く体を震わせ、怯えている。

「…なるほど、やっぱりね。」

「っ……」

十字架を仕舞い、後ずさった分だけ彼女に近づく。彼女はじっと、ただそれを見つめていた。

何故バレてしまったのか。一言も言っていないのに、何故。考えようとしても分からない。分からないけれど、確実に。

「ルナサ。」

…仲間に、なれない。

「…スーパー超大歓迎っ!!いやぁこれで不安要素なんっにもなくなったわー!!」

「…へっ?」

いえーいっ、と早苗と雷鼓が互いにハイタッチをする。その光景に、思っていたリアクションとあまりにもかけ離れすぎていてかなり間抜けな声が出た。

それを見て、衣玖が横から口を挟んだ。
「あの、えっと…彼女は幽霊…っという認識でいいのでしょうか…?でも、幽霊を仲間にって…」

「え何?衣玖さん反対?種族差別するの?うわーうわーこの人でなしー。」

「そうだそうだ!種族が幽霊だからって仲間外れにするのはよくないぞー!人間に混じりたい別種族だってたっくさんいるんだぞー!」

「あっ、い、いえ、そうではなくって。」

誤解を生んでしまったことに気がつき、二人のブーイングの嵐を中断させる。胸に手を当てて、優しく微笑んで、

「…何となく、いいな、と思いまして。何となくですが、こうして他の種族を受け入れることができるこのことが…とても素晴らしいことだと思ったのです。」

「……」

クサいセリフ言って、恥ずかしくなったのか。顔を真っ赤にして、今のは忘れてくださいと必死に手をわたわたさせた。その姿がちょっと可愛らしくて、早苗と雷鼓の笑いを誘った。

「…ま、うちってこんなカンジで、幽霊も大歓迎なのよね。だから気にしなさんな。人間じゃない、種族が違う、だからって何も気にすることは無いわよ。それが受け入れられない人なんて、うちの宿に所属している冒険者にはいないわ。」

「っ……」

恐らく、気にしていたことなのだろう。どのような経緯があってそのような身になってしまったのかは分からないが、確実に自分が『人間とは異なる異質なもの』であることに違いないという事実に縛られていたに違いない。

それがバレて、受け入れられて。たったそれだけのことなのだが、それがなかなかできないのが『種族』というもの。それは、早苗も、雷鼓も、よく分かっていた。

だからこそ。

「…それじゃ、これからーー」

よろしく、そう言おうとした刹那、

「…みのりん?」

突然明後日の方向に向いて、早苗が呟いた。

「?どうしたのですか早苗?」

「……っ!?ど、どうしたの何があったの穣子!!」

端から見れば大きな独り言。突然必死な形相になりここに居ない者の名前を呼ぶ。何が起こっているか分からない衣玖とルナサに、もしかしたらと気がついた雷鼓が二人に説明する。

「早苗は…遠距離でもみのりんと会話が出来るんだ。反対にみのりんからも出来る。多分、みのりんが何かあって早苗に連絡を取ってるんだと思うんだけど…」

 

どう見ても、普通の事態ではない。それはこの場の誰もが分かった。

「…仕方ないわ、ちょっとこっちにきなさい、話はそれからよ!…できない?は、何でーー」

一瞬、声が途切れる。次には、先ほどの荒声ではなく、静かな、しかし震えた声に変わっていた。

「…あんた、何で割り込めるわけ…?…いや、愚問ね、穣子がこっちに来れないの、あんたが押さえてるのね…」

「…第三者…?」

周りには早苗の声しか聞こえないので、推測するしか出来ないが、『あんた』という新たな対象が生まれていたお陰で、少しずつ状況が把握できてきた。

「…ちっ…皆っ、ついてきて!走りながら状況説明するから、早く!」

嫌な汗をかきながら、慌てて宿を飛び出す。残りの仲間も、それに続いた。宿の客や冒険者も居たが、それを気にしている場合ではなかった。

 

 

 

「…全く。よりによって、同族だっただなんて…」

「確かに巫女は、神をその身体に降ろすことができるわ。その力は物理的な干渉はありえない。…けど、」

「同じ性質…”神”同士なら、それは容易に行えてしまう。」

神というのはあちこちで性質が違う。この考え方が通用するのは、向こうも東洋の生まれであるからこそ。しかし、それではどうしても一つの疑問が生まれてしまう。

何故、穣子が、彼女の霊力ー神が持つ魔力的概念ーを感じ取ることができなかったのか。

「…不思議そうね。…私も、もう分からないのよ。自分が一体、何であるのかが、ね。

貴方が私の霊力を読めないってことは、多分もう、あそこの国の紅葉の神ではなくなってしまってるわ。小さな神から、何か得体のしれないものに…もう、神と名乗っていいのかさえも分からない。」

「…?」

ふと、憂いのようなものを感じると同時に、不思議な親近感が沸いた。

その正体が何かは分からないが、何か、自分と近いもののような、不思議な感覚がしたのだ。

「ねえ。」

その正体が分からないまま、唐突に尋ねられる。

「穣子ちゃんは、これがほどける?」

そう言って足下を指さす。それは今もなお、自分にまとわりつくびくともしない蔦。

それに自分が干渉しろということか。神と巫女、あるいは神同士の会話とは違い、こちらは全く同じ性質を持たない神でない限り、その技は難しい。魔術の類は同じ力である故に、相手の術式や仕組みを分かってしまえば干渉を望むことができる。

が、神の場合は力に性質がある。水の神がどれほど火を起こそうとしてもできないのと同じで、もたらすことができる力は決まっている。

逆に言えば、干渉できるということは。

「…?」

同じ性質である神であるということ。

少し力を込めて押さえてやれば、思いの外簡単にその蔦を押さえることができてしまった。…同じ豊穣神であるのだろうか。でなければ、納得がいかない。

「…よかった。私はまだ、名乗っていいみたいね…ありがとう。」

もう、言動の訳が分からない。リューンを離れろから始まり、足を絡められ、ほどくとお礼を言われてしまう始末。一貫性がないから余計に考えが読めない。

それどころか、同情のような感情の芽生えすら感じる。何故か、始めに思った、あの不気味な感覚がすっかりなくなってしまったのだ。

「…あの、さ。一体、君は何なの?いや、正体っていうか、その…」

何かが聞きたいのに、何が聞きたいか分からない。多分、一番近いのは『目的』なのだろうが、果たして本当にそうかと言われると、違う気がする。

ただ、何か自分と近いものを感じる。それがどの点なのかは分からない。分からないけれど、何となく、どこか、似ていると思ってしまうのだ。

「ーー穣子っ!!」

自分が呼ばれる声を聞いて、ハッと我に返る。振り返ると、早苗や衣玖達が必死になってこちらに向かってきてくれているのが分かった。

「…?あの姿、もしかして…」

「そこのあんたね…穣子に何かしようとしたのは…!」

間に入り、黒いローブを纏った彼女に向かって短剣を振るう。チッと舌打ちをすると同時にひらりとそれを避け、大きく後方へと跳ねた。

「…貴方は、彼女に仕える巫女ですか?」

「答える義理は無いわ。あんたこそ、何が目的だったのか、答えてくれる…?」

答えなければどうなるか。鋭い目線で彼女を射抜く。相手は動じていない様子だった。

「さ、早苗っ、ちょっと待って!」

静止の声を投げかけるのは穣子。しかし、早苗はそんな声は聞こえないと言った様子だった。ただ自分の得物を握り、ギッと相手を目に映す。

数歩、衣玖が前に出る。早苗と並ぶような位置にたどり着いて、冷静に、低めの声で言った。

「…張り紙にありました。黒いローブ、小柄な体格、女…自警団に追われている身だそうですね。

穣子、貴方は彼女に何かしらの思い入れを抱き始めているようですが…信用してはいけないと思います。」

衣玖も並んで、剣を構える。しばらく睨み合っていたが、やがて、

「…信じてもらえるかどうかは分かりませんが、少なくともそれは嘘の張り紙です。

私は何も追われるようなことをしておりません。」

何も恐れることなく、冷静に、そう言った。

その言い方が余計に早苗と衣玖にとっては嘘のように聞こえたのか、聞く耳を持たずに己の得物を振るう。あまり相手は俊敏ではないのだろう、避けきれずに、いくつも体に刃物をかすめていった。

違う、彼女は本当のことを言っている。何故かと聞かれると分からないけれど、何故かあれが真だと分かる。何か、違和感がある。

雷鼓とルナサも気づけば加勢していた。このままではいつか、彼女が先に倒れてしまうだろう。分かっていたけれど、止めるための言葉が足りない。

問答無用で、切り裂かれた布切れが宙を舞う。

「ーーあ。」

正体が、分かった。

根拠となる、事柄の。

 

 

 

 

 

これ途中で話途切れさせれなかったから、かなり中途半端に切りました。宿出る前だとくっそ短いの!

そしてやたら加入話が長くなってしまってる。そろそろ終わらせたい。本気でそろそろ終わらせたい。

東方リプレイ1-6 『緋の風が妖しく輝き』

リューンの木葉通り。そこにはぶつくさと不満の声を漏らしながら裸足で歩く少女が一人。


「全く、何であたしが…」

ついてないなぁと思いつつ、賑わう街の道をやや早足で通り過ぎる。空は青空、やや風の強い日だった。

 

「……?」

 

ふいに、

「穣子ちゃん。」

 

風が、強く吹いた。

 

  ・
  ・

 

「というわけで、みのりんはじゃがいもを買いに街へ放り出されたのだった。」

「どういうわけですか。」

「あぁ、可哀想なみのりん…親父さんの魔の手によって、あんな人の多いところへ独り放り込まれて…あぁ、可哀想だわ、あんまりだわ!!」

「では貴方が出向けばよろしかったのでは

「運命の神には逆らえないものよ。」

ふう、とため息をついて自分の武器を研ぐ。彼女は武器の手入れはこまめにしていた。いくつも磨きあげられた短剣がカウンターの上に並べられている。…あのとき最も得意だと思った短剣は実はそうでもないのかもしれない。

対する衣玖は、ある依頼書を見つめていた。それは自警団から冒険者に出されたものらしく、『この女を捕まえてきたら500sp』というものだった。身なりはローブを纏っているが意外と小ぶり、体が頑丈で魔法を扱うのが得意だとかなんだとか。まぁ、無理だということでカウンターにそっと置いた。

で、穣子はというと。先ほど、親父さんにお使いを頼まれた。ジャンケンした。穣子が負けた。

それで、今に至る。

「…ん、誰か来たわ。」

と、早苗のその言葉が言い終えられると同時に、宿の扉が開かれる。そこには赤い髪をした女性が立っていた。

「よっ、さなっさん!」

「あら、らっこさんじゃない。いらっしゃーい。」

入ってくるとすぐ、ガッと強く互いに握手をする。するとすぐに周囲を見渡し、穣子の姿が見えないけどと尋ねる。今は親父さんにパシられてると説明すると、そっかと言って早苗の座っていたところの隣に腰掛けた。それに続いて早苗も再び座る。

「あの、この人は…?」

「あぁ、そういえば衣玖さんは初対面だったわね。彼女は堀川雷鼓。ま、ちょっとした腐れ縁っていうかね。」

「出身国からこっちに来るとき一緒だったんだ!あと、右も左も分からないわたしを拾ってくれて…」

「え、拾って…?」

「あ、いや、迷子になってただけよ!」

慌てて雷鼓の言葉を遮る早苗。その様子に不振な眼差しを向けながらも、そうですかと言って、それ以上は何も聞かなかった。

「ごめん、悪い方だった?」

「そうね、”まだ”悪い方ね。…っと、あんたにも紹介しておく必要があるわね。この人永江衣玖。なんか、浜辺に打ち上げられてた。」

「いや、間違ってはいないのですが。」

微妙な自己紹介に、思わず苦虫を噛んだようなような顔になる。ただそんな適当な自己紹介もそっか、よろしく!の一言で済ませてしまうのは彼女の性格か、頭か。

「それでらっこさん、決まった?」

「ああ!もし皆が同意してくれるんなら、わたしもチームに入るぞ!」

「ありがと!じゃあ加入決定ね!」

「ちょっと。」

何か不満があったらしい、挙手をして目で訴えかける。

「…あぁ、みのりんはすでに話してて同意済みよ。」

「そーじゃなくて。私の意見は端から無視ですか。」

「あんたの意見なんてあってないようなもんでしょ。」

「うわ酷い。酷いけど否定できないのがつらい。」

初対面であるのは自分だけ、早苗も穣子もこの人がどのような人であるかを知っている。上に友人関係。自分が意見することなど何もない。

ただちょっと、眼中になかったというリアクションが気に食わなかっただけなんです分かってください。

「…そういえば、雷鼓さんはチーム内での役割は何になるのでしょう?」

雷鼓でいいぞ。多分、戦士じゃないかな?こう見えても腕っ節には自慢があるんだ!あとは、リズム感とな!」

どや、と腕を組んで威張ってみせる。後者は何の役に立つのか分からなかったが、とりあえず前衛に突撃していくタイプだということは分かった。

「じゃああとは2人ね。うん、いい感じに集まってきてるわ。あとは僧侶が来てくれると嬉しいとこなんだけど…まぁ、治癒の心得はあたしにもあるし、みのりんもあるから居なくても大丈夫っちゃあ大丈夫なんだけど。」

「…早苗さん、職業なんですか。」

「本職って言ったら巫女になるわよ。東洋の神とこっちの精霊は似たような性質があるから、多分その内召喚術を身につけるつもり。あと、こっちに来てから聖北のことかじったりしてたから、ついでに『癒身の法』だけ身につけたり。あと、興味本位でかじった盗賊の技術が意外と楽しくって、わりと本格的に手を出したわ。」

「……」

盗賊で回復ができる、というよりも、巫女で暗殺ができる、という方が正しいらしい。思わずなんでもありか、とツッコミをいれたくなってしまう。

「…あ、あのっ…」

「うおあびっくりした!あんた誰!?」

と、唐突に後ろから声を掛けられて驚く早苗。その声に立っていた少女はびくりと体を震わせる。

気配を隠していないのに早苗が気がつかない、というのは少しおかしな話である。彼女は人の気配には敏感で、周囲に人が居れば基本的には感知できる。それが、今回ばかりは本当に誰もいない、そう思っていたのだ。

それが、何を意味するか。

「あっ、あの、ごごご、ごめんなさいっ…そ、その…わ、わた、

「あっルナサ!昨日一緒に演奏した子だよな!」

と、雷鼓が困っている彼女の手を握りブンブン振り回す。何だ、知り合いだったのねと早苗は意外そうな顔をした。

雷鼓は二人は知らないだろうからときって、昨日あったことを簡略化して話す。ルナサを誉めるような言葉が多く、それを聞いた彼女は顔を赤くして照れていた。

「へぇ昨日そんなことやってたの…やぁねー青春しちゃってー、早苗ちゃんそういうの大っ好きよー!」

「青春…なのでしょうかそれは…」

仲間になって一週間が経とうとする今でも、衣玖はなかなか早苗のテンションについていけなかった。周りはそうでもないので、それが不思議で仕方がない。長年のつきあいというのもあるのだろうが。

「それでどうしたんだルナサ。また一緒に合奏したくなったか?」

その言葉に対し、首を横に振る。それも願ったりかなったりなんだけれど、としどろもどろになりながら、彼女は一生懸命途切れ途切れの言葉を紡いだ。

「わ、私も…私も冒険者になりたいの!」

 


「…君は?どうしてあたしの名前を知ってるの?」

声の主を探すために少し大通りから離れると、気づけば路地裏の人目につかないところに迷い込んでいた。

見つけるなり、警戒しながら穣子は名前を呼んだ人を強く睨みつける。顔を覆ってしまうようなローブを纏っているせいでそれは見えないが、声からして女性だろう。背はそこまで大きくなく、小柄な体格なのは確かだった。

「やっと…やっと会えたわ…長かった…ずっと…ずっと探してた…」

「…?」

心なしか少し涙声のようにも聞こえる。それが穣子を困惑させたが、逆に警戒心を強める結果となった。

もし、それを信用して騙されることになったら。

何か異様なものに見えた。得体の知れない、何かに。

逃げた方がいい。そう思って駆け出す刹那、彼女は穣子の腕を掴んだ。

「ちょっと、離して

「お願い、ここから…リューンから離れて。」

「は?何言ってるの…そんなことしないし、する義理もないさ…何が狙いなのかは分からないけど、やだね!」

掴む手を振り払う。あまり力は強くなかったので、それは簡単に叶った。

が、足を前に出そうとして、それと中断させられる。何かに強くひっぱられた。

何事かと思い、足下を見る。そこにはびっしりと、蔦が絡まっていた。

「…っ!?」

「お願いだから、話を聞いて。」

一歩、また一歩と近づく。睨みつけて反抗する態度を取るが、うっすら冷や汗が流れ出ていた。

 

 

 

この温度差である。

正直ここからは結構この話駄作だと思ってる。なんか、筆がすすまなかったっていうかその

東方リプレイ1-5 『緋の風が妖しく輝き』

交易都市リューン。早苗や穣子が拠点にしている宿があるこの町は治安もいい方で、街には活気がある。勿論路地裏や人目のつかないようなところでは犯罪もおきやすいが、表面は比較的明るい街だった。

あちこちで人が行きかい、楽しく会話をする声が聞こえてくる。老若男女、様々が様々に暮らすこの街。

今回は、その街にふらりと行き着いた、一人の少女のあるお話。

 

「……」

その街の広場に、明るい街並みに反する一人の少女がじっと立っていた。黒い服を見に纏い、金髪のボブカットにされた髪を揺らせる。垂れ目の、いかにも気弱そうな女の子だった。

心なしか震えているような気がする、否、ガクブル震えている。辺りをキョロキョロしながら、逃げるように広場の端っこに逃げた。

「…うぅ…やっぱり勇気出ないなぁ…」

ぎゅっと、手に持っていたヴァイオリンを強く握る。しっかりと手入れされた、綺麗なものだった。

彼女の名前はルナサ・プリズムリバー。吟遊詩人なのだが、困ったことに彼女には人前で歌う勇気が無かった。

酷く怖がりで、気が弱くて、歌おうにも歌えない、お前本職なんだよ、手に持っているヴァイオリンは飾りか、色々言ってやりたくなる少女。すでに目には涙が溜まっていた。

歌うのは好き、大好き。ヴァイオリン誰かに聞いてもらいたいです聞いてください、でもやっぱり怖いんですあぁごめんなさいごめんなさい私をみないで!と、まぁ、困ったことに未だに人前で一曲も披露できたことがない新米吟遊詩人なわけで。

しかも、吟遊詩人でヴァイオリンを持っている者はかなり珍しい(ハープが王道)。だからこそ、余計に注目を浴びる…というより、持っているだけで浴びる。もうその視線だけでいっぱいいっぱいだった。

「…や、やっぱり私には無理なのかな……」

と、出だしからつまづきそうな、そんな彼女はふと耳にした。

それは、軽やかな打楽器の音だった。それも、あまり聞いたことのない。気になり、その旋律が聞こえてくる方に足を運んだ。

意外とそれは近くからで、叩いているのは大人の女性、一人だった。赤い髪が特徴で、軽やかに太鼓を奏でている。

それはもう、とても楽しそうに。

「……いいな…」

しかも、持っている楽器は多分、この辺りにはないものだ。見たことのない変わった形をしている。

自分を囲むように大きな円があり、そこに小さな太鼓がいくつもついている。それを一人で、器用に叩くのだ。

彼女は知らなかったが、きっと東洋の人ならこう言ったであろう。

まるで、雷神のようだと。

「……」

気がつけば、ずっとその演奏に聞き入っていた。不思議なほどに、その音楽は明るい気持ちにさせた。

楽しく、人を楽しませる。自分が焦がれていた音楽だ。それを、あの人は自分も楽しみながらやっている。

理想的すぎた。それと同時に、自分に無いものを彼女は持っているように思えた。

「…ん?おぉっ、そこの黒い服の金髪少女っ子!面白いもの持ってるじゃんか!おいでおいで!」

急に演奏をやめて、ルナサに向かって手招きをする。あまりの不意打ちに、思わずびっくりして数歩後ずさりしてしまう。

「え、あ、あの、わ、わわ、わた、私…」

「?だってそれ、チェロだろ?いーじゃん、一緒に楽器やろーよ!」

「チェロじゃなくってヴァイオリン…」

周りの人も、聞いてみたいという眼差しを向けてくる。どうしよう、恥ずかしい、逃げ出したい。

震えて、涙がこぼれそうで。そんな様子に首を傾げて、その人は向かってきた。近づいてみると、自分よりかなり背が高い。

「どうしたんだ?怖いのか?」

「…あ、あぅ…そ、その……」

必死に、できるだけ大きく首を縦に振る。とても言葉にはできそうになかったから。

だから、お願い、関わらないで。そう願うけれど、その人はにやりと笑って、

「もったいないよ。演奏したいって気持ち、痛いほど伝わってくる。大丈夫だって、わたしが居る。どんな音楽だって、わたしが居たら大丈夫だから。」

ガシッと腕をひっぱり、元居た場所に戻る。振り払おうにも、無駄に力が強い…!とてもじゃないけど、振り払えそうにない。

「おっまたせー!それじゃ、えーと、なんだっけその楽器。あ、ヴァイオリアンか。それと、和太鼓の演奏はっじまっるよー!」

「わ、和太鼓!?」

もう、組み合わせが無茶苦茶だ。西洋のものと東洋のものが合わさるものか。

…しかし、もうこうなってしまった以上やるしかない。腹をくくるしか無かった。

「あぁもう、どうにでもなれっ!!」

半ばやけくそでヴァイオリンを構える。見ている。見られている。怖い、怖い…っ!

必死の思いで弓を引き始める。上手く音になりそうにない、緊張で体が完全に固まっていた。

「…よし、大丈夫。合わせてみせるし、合わせられるからな。」

そう、小さく呟いてウインクを飛ばす。その直後、軽快に和太鼓を叩き始めた。

とても、合いそうにない楽器。洋と和、互いに相反する、そんなーー

「…え?」

その太鼓の音が聞こえた途端、急に緊張が解けたかのように腕が、弓が動く。動かされている、そんな感じ。

それに、音が上手く合わさっている。違和感なく、上手く調和されている。おかしい、そう思えるくらいに。

「…わたしな。すっごく得意なことがあるんだ。何でも、リズムに乗せられる。風の音も、雷の音も、すべての音が、わたしの音楽ーーいや、今は、君とわたしの音楽だな。」

にいっと笑って、調子を上げる。私はもう、このときには恐怖心は無かった。

楽しむだけ、楽しめ。そう、本能が囁く。もしかしたらあの人がそうさせているだけかもしれないし、違うかもしれない。

…それでも、良かった。ただ、楽しかったから。

ずっとやりたいと思っていたのに踏み出せなかったこの一歩。その一歩が、彼女によってようやく出せた。

それが、何よりも嬉しかったから。だから。

私は思うがまま、ヴァイオリンの弓を引いた。

 

  ・
  ・

 

「いやぁ、ごめんなー勝手に巻き込んじゃって。」

演奏が終わって、拍手喝采の後、そう謝罪をされた。…全く申し訳なさそうに思ってない表情だったけれど。

「ううん、私も…ずっと人の前で引きたかったこれ、引けたから…だから、ありがとう…」

今できるだけ精一杯の笑顔を彼女に向ける。彼女もそれに、笑って答えた。

気がつけばもう夕方だった。一体どのくらいの間演奏をやっていたんだか。自分でもこの時間経過にはびっくりした。

「あ、そうだ…名前聞いてなかった。私はルナサ・プリズムリバー…吟遊詩人やってるの…あの、君は?」

「ん、わたし?わたしは堀川雷鼓!今のところ無職だ!」

「むしょ…え?」

楽器が違う、同職者だと思ってた。

「いやまぁ、近いうちにちょっと、違うこと始めるかもしれないけどな。」

「違うこと…って?」

その質問に、雷鼓はにやりと笑って答えた。

「冒険者だ。勧誘されてるんだ。」

改めて、その人を見た。よく見ると、腰には一本の、刀が下げられていた。

 

 

 

 

今回短め。前回の次の日のお話。

みょんと武器被るけど、二刀流かそうじゃないかは大きいかなって。

らっこさんの能力『何でもリズムに乗せる程度の能力』が思わぬところで輝きました。しかしあれだな、本当にらっこさん、衣玖厨じゃなかったらただのイケメソなのな!!

そしてこれ、リプレイじゃあ完全にルナサ→雷鼓のフラグですね。まぁ、いっか!!

 

 

 

著作権

『交易都市リューン』 Ask様

東方リプレイ1-4 『緋の風が妖しく輝き』

「…東の方から大きないびき声が聞こえてきますね。」

洞窟の中故によく響く。注意しなくても聞こえ、むしろうるさいくらいだった。

「どうしましょう…倒すべきなのでしょうか。」

「あたしは寝ている間に倒すべきだと思うよ。多分、ホブゴブリンだ。ゴブリンのおっきいやつ。」

かなり大きな体をしているが、知能は残念。といっても駆け出し3人が相手にすればそこそこ苦戦する相手ではある。1体だけならなんてことは無いだろうが、この先ゴブリンが集団でいる中に、突っ込んでこられると面倒だ。

それなら今のうちに倒しておくべきだろう。

と、東の通路に足を踏みだそうとした刹那、異変が起きた。

「…えっ、こ、声が消えた…?」

もしや、起きてしまったか。一本道であるなら、こちらに来ても何もおかしくない。

「…すぐに対応出来るように、武器を構えておこっか。ま、無駄だと思うけどね。」

やれやれといった様子で穣子は武器を構える…というより、持っただけに近い。無駄だという意味が分からないまま、衣玖の方はしっかりと剣を構えた。あまり良質なものではないものの、ゴブリン程度なら普通に戦える。

じっと構えているが、気配がやってこない。どうしたと思っていると、唐突に後ろから声が投げかけられた。

「何してんの?」

「うおあ!?って、え、早苗さ…え、さっきそこに居ませんでした!?」

そういえば、洞窟に入って数個言葉を交わして、急に存在が消えていた。

「全体をざっくり見てきたわよ…って、調査よろしくって言ったのあんたでしょ?なぁにリーダー、自分で頼んだこと忘れるなんて記憶喪失を通り越して痴呆になったんじゃないの?」

「そこまで言いますか!そして私が頼んだのは周囲の調査のことで、誰も洞窟全部を見て回ってこいとは言っていません!」

こうも荒声をあげていると気づかれていてもおかしくないと思うのだが。おかまいなしにギャーギャー騒ぐ衣玖。更にそれを止めない二人。

大丈夫かよこいつら、という質問がいつ飛んできてもおかしくない。

「…で、早苗。ホブゴブはどうしたの?」

「あ、あれ?寝てたから、殺っといた。」

と、そう言って顔の横でブイサインを作る。もうこうなると衣玖の命令(命令という命令はしていないが)が完全に無視である。

「団体行動!!皆さん団っ体行動!!」

作戦自由奔放か。ガンガン行こうぜの方がまだマシな気がするくらいのこの自由度に、流石の衣玖もついに怒鳴り声をあげた。対する二人はまぁ落ち着いて、と彼女をなだめる。

「何ですか二人とも!フォローすると仰ったわりには単独行動ですか!!リーダー無視ですか!!」

「いやいや、これにはちゃんと理由があってね?」

「自分がやりたいようにやっているだけでしょこれ!私居る意味あるのですかこれ!!」

「うん、あるよ。あるからちょっと、黙って今度こそ武器構えよっか。」

そう、洞窟の中でこんな大声を張り上げれば内部に恐ろしいいきおいで響きわたるわけで。

ぴたりと声を止めて、気がつく。大量の足音が、自分たちの方に向かってきていた。

失態といえば失態だが、仕方のない悲しい事件な気もする。

「早苗、数は?」

「ゴブリン4、コボルト4か5、シャーマン1よ。悪いけどリーダー、ちょっとここだけは経験者のあたしの意見を聞いてちょうだい。」

唐突に真面目な雰囲気になる。衣玖もその切り替えに面くらい、慌てて返事をする。

それと同時に、二人の動きに、もしかしたらという意見が生まれた。

(もしかして…失敗をする前提で動いていました?)

どうするかということを出来るだけ考えさせて、リーダーとはどういう存在か、こういうときはどう対処すればいいか。しかし悠長にやっていては相手に攻められるかもしれない。だからこそ、指示をする前に、彼女らなりの的確な動きをしたのでは。

そう考えると、握る剣の力が自然と強くなった。

「シャーマンは魔法を使ってきて面倒だから、一番に倒す方針で。後衛で構えてると思うから、みのりんの魔法とあたしが切り込みに行ってそれで倒す。んで、衣玖さんはみのりんの支援をして…できれば、ゴブを中心に相手しなさい。コボはほっといたら逃げてくやつとかいるから、そうなったら無理に相手しなくていいわ。…おっけー?」

肯定の意を示すかのように、静かに各の得物を手にする。よくもまあ、一瞬でここまでの作戦がたてられるものだと、衣玖は内心で先ほどのことを謝罪した。

来る。初めての実践。たった数日だけ教えられた剣で何とかなるのか。分からないけれど、やるしかない。

「…ゴブリンって美味しいと思う?」

「ちょ、いきなり何仰るのです!?」

そしてせっかくの緊張感が台無しである。

「衣玖さん。緊張感は確かに大切だけど、固くなりすぎると、痛い目に遭うよ。」

…なるほど、気遣いだったのか。ふざけているようで、二人は常に真面目に事をとらえている。つかみ所が無く、振り回されているようで、上手く誘導してくれている。

そんな、気がした。

「よし、じゃあ、任せたわよ、リーダー!」

ゴブリン共がこちらに到達するより先に、早苗は一歩を踏みだし、前に跳ねた。手には短剣。あれが彼女の一番得意とする武器なのだろう。

ゴブリンやコボルトを避け、シャーマンに一撃を加えるべく剣を振るう。奇襲じみた素早い一撃に反応できずに喰らうが、致命傷には至らない。

衣玖も穣子の援護をすべく、向かってくる妖魔の手を剣ではじく。

「っ…!」

が、すべて見切れるわけではない。思わぬ方向からの一撃に避けきれずにそのまま傷を負う。左腕をかすめ、血が飛び散った。

その刹那、穣子の術の詠唱が終わり、

「よし、放てっ!」

一本の魔法の矢が、対象を狙って真っ直ぐ飛んでゆき、

「ギャッ……!!」

狙い通りにシャーマンの心臓を貫き、そのまま倒れて動かなくなった。

「よしっ、シャーマンさえいなくなったら、後はザコ共だけ!さぁ刈るわよ!」

「なんか悪役じみてるなぁ…ま、ゴブリンからしたら悪役みないなもんだもんねっ…!」

再び形成される矢。的確に刺さってゆく短剣。そして、守るように振るわれる剣。

衣玖も、数日握っただけとは思えないくらいの太刀に仕上がっていた。元々戦の才があったのかもしれない。それに、彼女はいきなりの実践のわりには、比較的冷静に戦えた方であった。

そんなこともあり、洞窟に住み着いていたゴブリン共は割と簡単に一掃された。

 

  ・
  ・

 

「やったわねー宝箱開けて追加で200spと杖!合計報酬800spに杖!ちょっと上々すぎて怖いわぁー!」

宿に帰ってくるなり、早苗は上機嫌で酒を飲んでいた。その隣で、穣子は杖について調べていた。こういうマジックアイテムが手にはいると真っ先に調べたくなるのが彼女だ。

「『賢者の杖』なんて、またいいもの拾ったね。貰っちゃっていいのかな。」

「いいじゃないの。見つけたもん勝ちよそういうの。」

そっか、じゃああたしが貰うねと言って、穣子は嬉しそうにその杖を自分の横の椅子に立てかける。と、それを見てか、一人の女の子が話しかけてきた。

「お疲れさまです。初めての3人での実践大丈夫でしたか?」

白銀でおかっぱの、やや背の小さな少女。幼い感じが残るものの、その少女は、

「あらまな板。」

「まな板じゃないです!!」

先輩方、『妖々花』のリーダーまな板こと妖夢だった。後輩がタメで先輩が敬語という不思議なことになっているが、いつものことなので気にしない。

「全く、酷いですよ人が心配してこうやって様子を見に来たのに…!」

「いやぁ、事後だから心配してこられても、ねぇー。」

「ねぇー。」

完全にからかっている。頬を真っ赤にして怒る姿は、最早リーダーの威厳のいも無かった。これでは仕方がないと誰もが納得する。

「コホン…で、あれ、衣玖さんは?」

「え、そこに居るじゃない。」

そう言って、横を指さす。そこにはカウンターに突っ伏したままの衣玖の姿があった。

「いやぁ、予想以上にお酒に弱くて。飲ませたら2杯目くらいで死んだ。」

「…無茶させないであげてください。」

こつん、と頭に可愛らしく拳をぶつけて舌を出す。酒豪の早苗が果たして何杯飲ませようとしたのか…考えるだけで恐ろしい。

「…あっ、そうだ。藍は今居ないの?」

藍というのは、『妖々花』の参謀を勤めている魔術師。札を扱った魔法を得意とし、何となく呪術にも似た妖しさがあるのが特徴的だった。

参謀の中でも知識はかなり豊富で、この世の殆どの事は知っていると謳われるほど。また彼女の策略はチームを幾度も助けただとかなんとか。

まぁ、誇張表現は多いと思うけど、と早苗と穣子。

「あー、今ちょっと賢者の塔の方に行っちゃってますね。急ぎの用事ですか?」

「ううん、急がないよ。…たださ、気になるじゃんか、これ。」

そう言って、また指を指される衣玖。口端をつり上げて、ケラケラ笑うようにして言った。

「どうせ、彼女も人間じゃないんでしょ。」

「……」

根拠は?と、妖夢は穣子に無言で尋ねる。それを見てやはり笑顔のままで答えた。

「理由は二つ。あまりにも戦闘の才がありすぎる。ちょっと教えただけでこれだよ?まな板の指導でこんなに上手くなるんだよ?奇跡じゃなかったらそうでしかないでしょ?」

「なるほ…ってちょっと!私の剣術がダメだと言うのですか!」

「それは認めるけど教え方がイマイチ。」

「……」

切れぬものはあんまりない、と豪語するだけあって腕は確か。本当にありとあらゆるものをばっさばっさと切ってゆく。

が、それを他人に教えるとなると、やはり別の能力が求められる。彼女の場合、握れば切れるという根性論が多いのだ。ぶっちゃけ根性以外にもあるだろ、と影で見ていてツッコミを入れたくなった衝動に何度も駆られたととのこと。

「あとね、もう一つ。生き物を殺すのにさ、躊躇ってものが無かった。」

彼女の性格的に、顔色を悪くしたり酷ければその光景がトラウマになったりしそうなものなのにね、といたずらな笑みを浮かべる。それだけ、穣子は衣玖を見ていた。

それは、まだ警戒心を解いていなかったことの表れか。

「まーあ、あたしたちのとこに来た時点でもう運命みたいなもんなんだけどね。さて、衣玖さんに何て言おっか。」

今度ばかりは彼女も困った笑みを浮かべる。妖夢はその言葉に何も返せなかった。

それをただじっと、口を挟まずに早苗は見ていた。

 

 

 

 

 

というわけで、ゴブ洞は3人で無事攻略できましたとさ。しかしまだまだ加入話は続くのです。ようやく真ん中くらい。

しかしこの加入話を終えたら多分また数ヶ月くらいきっと更新しなくなるんでしょうね…

東方リプレイ1-3 『緋の風が妖しく輝き』

アレトゥーザから帰ってきて5日ほどたった現在。


「ふーん、ゴブリン退治で600spは美味しいわね。親父さん、これ受けてくるわ。」

「ちょっと待てや。」

交易都市リューンにある冒険者の宿、双牙亭。早苗やその先輩方のチームが所属している、やや小さめの冒険者の宿だった。

実は常駐している冒険者はいまこの2組しか居ない。流れものと普通の客が大半を占めるせいで、これだけで事足りてしまうのだった。

「お前等、3人しか居ない上、そいつ戦えるかどうか分からんだろ。ちょっと危険じゃないか?」

「大丈夫だって。あたしたち全くの駆け出しってわけじゃないし…それに、衣玖さんってどうも戦闘民族だったみたいなんだよね。」

「金髪でスーパー化するのかんなアホな。」

実は、アレトゥーザから帰ってきて、早苗がすぐに衣玖を街外れにつれていき、戦えるかどうかを見てやったのだ。

「お前記憶なくしてるやつに無茶させるなよ。」

「あたしのカンがこいつは出来る子だって、言ったから。」

「出た、相変わらずの無茶苦茶な理論。」

するとどういうわけか、適当に渡した剣をそこそこ普通に扱えてしまったのだ。
多分、記憶を無くす前に何か仕込まれていたのだろうが…分からないから、とりあえず戦闘民族ということにしておいた。

「大丈夫よ。まな板にみっちり剣術指導しておいてもらったから、いける。」

「あいつの指導で大丈夫か。」

「……」

「……」

「いや肯定してあげてくださいよ。」

まな板、それはこの宿の早苗たちのもう一つのベテランチームのリーダーを勤める妖夢という冒険者。女剣士で、剣術なら右に出る者は居ない。ただ一つ、問題があった。

「いやだって、こう、リーダーって威厳がないっていうかさ。胸とか。」

「ないよね。胸とか、身長とか、胸とか、騙されやすさとか、胸とか、それから胸とか。」

「やめてあげてくださいよそんなに胸胸言うの。…それは…穣子よりも小さいとは思いましたが…」

そう、あまりにも胸が小さかったため、ついた二つ名が『まな板』、あるいは『レーズンオンザウォール』だった。

しかも威厳のいの字もないので、初めて依頼を頼む人は必ず「えっこんなリーダーで大丈夫か」といったリアクションをするのであった。

「…ドラゴンをも退治できる先輩チームのリーダーをまな板呼びするお前らが凄い。」

「あら、親父さんだってまな板呼びしてるじゃない。」

「ワシはあいつらが駆け出しの頃から居たから特権だ。」

(…そういえば)

ふと、衣玖は疑問に思った。この宿では拠点にしている冒険者が少ないということだからか知らないが、あまりにも上下関係が無さすぎる。どのくらい無いかって、タメ呼び捨て、遠慮を知らない、時々命令する、挙げ句にまな板呼び。

何というか、変な光景だった。他のところでもこんなものなのだろうか。と、あれこれ悩む衣玖の横で、段々依頼の話は進んでいくわけで。

「さてと、無駄話はこのくらいにしよ。無理そうだったら諦めて帰ってくるから安心してよ。」

それもそうね、と早苗もようやく席を立つ。不安要素を残しながらも、衣玖もそれに続いた。

その背中を見て、親父は一つため息をついた。

「…衣玖だけが知らない、か。ここの常駐パーティの実際の姿ってやつを。

…あいつらは話すつもりがあるんだかないんだか…」

 

  ・
  ・

 

「さて、あたしは大変な事実に気がついたわ。」

「リーダーが決まってないんだよね。」

リーダー、それは勝利への指導者。リーダー無しにはパーティは成り立たない。

今まで二人だったがために意識しなかったが、まぁ、もうこれは自動決定のようなものである。

「ってことで頑張ってね衣玖さん!」

「ファイト衣玖さん!」

「待ってください、なぜに私なのですか!?早苗さんではないのです!?」

「いやぁあたし、役職盗賊だから。」

早苗が調査役兼解錠役、穣子が参謀役、すでに成り立ってしまうこの事実。

と言っても、早苗は盗賊としてはかなり異端な盗賊である。何というか、盗賊らしくない。盗賊のくせに白という明るい服を着、聖北の術を扱い、精霊や神といった清らかな存在との親和性がずばぬけ高い。しかし観察力、罠や鍵の解除能力は他の盗賊よりも下になる。

まぁ、本職は巫女だから、巫女が盗賊をやってるっていう方が変な話なのだが。

「あ、あの、でも、私こういうのよく分からなくて…」

「だいじょーぶ、後押ししてあげるから。ひとまずは気楽にやってていいよ。記憶無くした人にそんな初めから無茶を言うつもりは無いさ。」

ぽんっと、背中を軽く叩く。まだ不安そうにしているが、小さくはい、と答えた。どうやら折れたようだ。

「そんじゃ、早速…見張りのゴブが居るんだけど、どうしたらいいかしら、リーダー?」

と、早苗が指指したところにはぽっかりと開いた洞窟。そして、緑色の肌をした妖魔の姿があった。向こうはまだこちらに気がついていないらしい。

「…気づかれないようにしなければいけないのですよね。…早苗さん、背後からしとめることは出来そうですか?」

「ちょっと自信無いわね。茂みが深くて、音を出さずにあれを殺のは…言われたらやってみるわよ?」

「いえ、できれば確実な手で…おびきよせるというのは?」

「人数が少ないから、非推奨かしらね。一気に叩かないといけないから、3人で仲間を呼ぶ暇もなしに倒せるかしら?」

うぅむ困ったというように、すっかり悩んでしまっている。その様子を見ながら、早苗は口端をややつり上げた。

「…穣子、助けてください。」

「あたしなら遠距離攻撃で倒すね。あんな感じに。」

そう言って、ちょいちょいと先ほどのゴブリンを指さす。見事命中して伸びているわけで。

「…指示出す前に殺りますか!!」

「あんまりにもじれったから殺っちゃったテヘペロ!!」

早苗と穣子は冒険者をやって半年くらいにはなる。衣玖と比べれば、こういうときの対処方はしっかりと身に付いているわけで。

「まま、今のうちにそういうことは考えてた方がいーよ。これから問題児が増えるかもしれないんだし。」

「は?問題児…?」

「いや、こうね、うちの宿は問題児が集うことで大変有名なのよ。常識人あたしくらいよ?」

「君が一番非常識人だよ。」

巫女から盗賊にジョブチェンジ。癒身の法を使う盗賊なんて聞いたことがない。闇に隠れる気がない盗賊も盗賊としてどうかと思う。

「と、兎に角進みましょう!あとお願いですから、指示を出してから行動してください!」

「はーい出来るだけ慎むねー。」

全く反省の色が見えない。大丈夫かよこいつら。

早くも衣玖は自分がリーダーじゃない方がいいのではと思い出してきた。

 

 

 

 

大丈夫かよこいつら、といいたくなるほどのこの自由な二人。自由すぎて怖い。

設定上、早苗と穣子はレベル2(経験値2点)からリプレイスタートさせてます。じゃないと衣玖さんの方がレベル高いって矛盾が起こるからね…!

それと、初期技能だけ。

早苗…『癒身の法』、『白昼の客星』

穣子…『魔法の矢』、『穀物神の約束』

 

オリ(東方の弾幕なんだけど)効果説明

『白昼の客星』…レベル4技能。全体に神聖魔法攻撃。アンデットに対して結構な威力を出すものの、そうじゃない場合かなりダメージは低め。どのくらいって。レベル2でバットが倒せるかどうかってぐらいだったような。

『穀物神の約束』…レベル2技能。麻痺、中毒、沈黙を完全に治療できる。が、体力に関しては『癒身の法』より回復量がやや劣る。因みに霊力を分ける、という設定ながら、相手の力の性質に変化するという特性を持つ(いつか本館で出したい設定)ので、幽霊とかに使っても大丈夫…なんだけど、相手が近づくだけで嫌悪感とか覚えるからやっぱり微妙。

 

 

著作権

シナリオ

『ゴブリンの洞窟』 Ask様

技能

『癒身の法』、『魔法の矢』 Ask様

東方リプレイ1-2 『緋の風が妖しく輝き』

「そうかい、それは大変だったねぇ。」

「全くよ。みのりんは完全他人任せだし…手伝ってくれても良かったのに…」

「それは無理だろうよ。あんな幼い子に大人を運ぶ力は無いって。」

二階の部屋の一室を借りて、そこに寝かせる。今はもう呼吸も安定しており、その内目を覚ますだろうということで、今は穣子が横についている。

早苗は一階のカウンターで、他の客とつるんでいた。顔は知らないものの、社交性が高い彼女はすぐに誰とでも話ができた。

「それは甘えよ。」

「いや無茶だろ。例えば…そうだ、あれだ、お前さん、この古代語を読んで

「すいませんでした。」

精霊や神との親和性が高い上に、手先が器用で盗賊技能をもこなす。腕力も壊滅的でない彼女は一見万能のように見えても、難しいことを考えたり学んだりするのは苦手だった。

知識とは溜込まなければいけない。相手のことを知り、覚えることができても魔法の類となれば笑顔で逃げ出すのであった。

穣子は逆に何でも知りたがり、知識を得ていくのが楽しいらしく、魔法の類にいつの間にか秀でていた。

反対に体を動かすことは嫌いで、お前それでも子供かよと言いたくなるような場面はしばしばあった。

「しかしお前、あの有名なチーム『妖々花』に付いてきてたんだろ?いいのか、そっちには迷惑はかかんないのか?」

妖々花というのは例の先輩方のチームの名前。そこの参謀が『人の集団を東洋の文字で表す呪い(まじない)』を試したところそうなったらしく、結局そのままそれで決定となったという、結構適当な決め方だそうで。

その呪いにとても興味を示した早苗。呪いの類は魔術と違い、早苗のような巫女の方が適正な場合もある。呪いは知力うんぬんよりも、精神的な干渉が求められることの方が多いのだ。

いつかそれでチームの名前を決めるためだけに、早苗がそれを習得したことを穣子はまだ知らない。

「あぁ、それは大丈夫よ。リーダーがその辺はいい性格してるから、こういうのは許してくれるわ。」

「あー…あれなぁ。あれはもう、なんていうか…馬鹿、だよなぁ。」

「もしくはまな板ね。」

などと、結構ボロクソに言われていることも知らずに、そのリーダーは今討伐を終えて帰ってこようとしているところであった。

 

「…っにしても…」

早苗が下で客と話をしている間、穣子はずっと助けた人の元にいた。

その人が気になったのではなく、着ている物と羽衣に興味を示していた。

「どういう人か、全く読めないんだよねぇ…」

その人が纏っている服、羽衣、すべてが上質のもので、とても一般人が手に入れることのできないような代物だった。

だからといって、貴族でもない。というのも、体のあちこちに昔に付けられたのであろう傷跡がいくつもあったり、貴族だとすれば異様に細かったり…後者は流されている間にそうなったのかもしれないが。

何というか、もったいない体をしていた。とても美しい肌をしているのに、生傷古傷がそれをすべて台無しにしている。

「…一番考えられるのは、この人が悪人だってことだね。」

誰かから盗んできた、そうなれば辻褄は合ってくる。捕らえられ、拷問でもされて、それから海に投げ捨てられた。別に不思議なことではない。

全くこの人のことを知らない。助けたけれど、果たしてこの人が善人であるか悪人であるか。それは、目を覚ましてくれないことには分からない。

その意味でも、穣子はこの部屋に残っていた。もしも後者だったら。逃げられないようにしておくのも考えたが、前者である可能性だってある。下手に手を出さない方が賢明だろう。

「…ん……」

「あ、おはよ。やっと気が付いた?」

警戒心を悟られないように、にっこり笑ってそう声をかける。対してまだちゃんと頭が働かないのか、焦点がなかなか合わなかった。

それでもしばらくすると穣子と目線が合い、かすれた声で尋ねた。

「…ここは…?」

「アレトゥーザっていう、海に面した街。びっくりしたよ、浜辺に打ち上げられてたからさ。」

「…アレトゥーザ…ですか?」

「そう。…知ってる?」

「…いえ…」

様子を見るなり、かなり無防備な状態だ。相手には今のところ警戒心は芽生えていない。

しかしアレトゥーザを知らないとは、と心の中で呟く。都市として大規模で、少なくともかなり遠くの出身でないと存在を知らないということはあり得ない。となると、本当に東の国の方からやってきたのか。

「そっか。じゃあ、いくつか質問するから答えてくれる?

 まず、君の名前は?」

「名前…永江衣玖ともうします。」

「めっちゃくちゃ東国の民だ。」

名前から大体の出身を予想できることはあるが、ここまで露骨だと苦笑しかしなくなる。

始めに睨んだ通り、東の方から流されてきたという説で正しそうだ。島流しの刑とか、なんかそんなものがあった気がする。

「ん、じゃあ次。何で海に流されたの?」

「え…何故……ですか。……」

その質問に困っている様子だった。うつむき、言葉を詰まらせる。

それに、ぴくりと反応する穣子。言いにくいことだろうか。それなら、と質問をしようとした刹那、

「…思い出せません。」

「…え?」

「あの、私…その…自分の名前しか分からなくて…その、すみません…」

「……」

ナンテコッタキオクソーシツカヨ。

申し訳なさそうに頭を下げる。流石にこれには予想外で穣子も動揺する。

「えっと、自分の名前以外に何か覚えてることってない?どんな小さなことでもいいからさ。」

「え、えーと……」

必死に何かを思いだそうとする。時計の長針が大体一周すると同時に、

「…昨日の晩ご飯は味噌汁だったような気がします。」

「んなあほな。」

昨日の時点じゃあ打ち上げられてたか海に漂ってたでしょ、と思わずツッコミを入れる。あぁそうかとポンッと両手を合わせ、その後また頭を下げた。

何というか、いちいち頭を下げるところあたり丁寧ではある。

「…じゃあ仕方ないっかぁ…さってと。これどうしようかなぁ…」

「あら、目覚めたんならあたしも呼びなさいよー。」

「っ!?え、だ、誰です!?」

いきなり第三者の声がして大変びっくりする衣玖に対し、それをいつものことのように受け止めている穣子。一つため息を付いて、後頭部を手で掻きながらその声に返事をする。

「相変わらず君はタイミングがいいね。また何で目を覚ましたって分かったの。」

「そんなの、勘に決まってるじゃない。やぁーねぇー、そんなの今までに何度もあったでしょー?」

「そうだね、昼間にもあったね。たださ、初対面の人がそれ見たら心臓飛び出るくらいびっくりするからやめようね?」

穣子がそう言うと、天井から唐突に床へと華麗に降り立つ。ひぎゃあという衣玖の声が聞こえたけれど、そりゃ上げるわということで二人は完全スルー。ぼんやりした頭に唐突にこんな奇術を見せられるのもそこそこに可哀想な気はした。

「…で。これからこの人どうする?右も左も分からないようなこの状態でどっかに放置するのも可哀想っていうか、その辺でチンピラに襲われて結局助ける羽目になりそうっていうか。」

体の内側はボロボロでも、隠してしまえばただの美人。いいようにしかされそうにない。

「一つ、すっごくいいこと思いついたわ。」

「ふぅん、何。」

その刹那、ニヤァと笑う早苗。あ、これは嫌な予感だと悟る穣子。そして、それが何のことか全く分からない衣玖。

「ウチと契約して冒険者になってよ!」

「ぼ、ぼうけんしゃ…ですか?」

「はーいストップ。」

ベシッと後頭部を殴り、ちょっとこっちにこいといった感じで早苗をひっぱる。不意打ちされた部分をさすりながら、小声で話す穣子に合わせて彼女も喋った。衣玖から怪訝そうな眼差しを向けられているが、今はそれは無視するしかない。

「いやいけるって。あたしのカンが囁くのよ、彼女はできる子だって。」

「…まぁ、才はもしかしたらあるかもしれない。正直ない方が違和感を感じるくらいだよ。それは目を瞑るとして…ダメな方だったらどーすんのさ。」

「じゃああんたはこのまま放っておけとでも言うの?それはイヤよ、助けた人は最後まで面倒を見る。それが普通でしょ?」

やれやれこのお人好しは、と一つため息をついて肩を竦める。それに、と早苗は一言付け加えた。

「根拠はないにしろ、ウチはそういう星の下にいるようなものでしょ?だから今回も、あたしたちのところに来たってことは、引かれてきたってことにしか思えないのよね。」

「よく言う。うちの宿の異端者が…連れてこられたあたしが言うのもどうかしてるっては思うけど。」

実は、早苗らの所属している宿には一つ隠し事があった。それは誰にも知られてはいけないし、その隠し事に当てはまらない者は所属する契約が結べないのである。

普通はありえないような隠し事。しかし、それを今まで守ってきた(というよりは偶然そうなって後からできたルールなのだが)。それを破ることは許されていない。

…早苗は破ったようなものだが。

「…あの、何をお話になって

「え、あぁ、ごめんなさいね、保存のツボは中身が取り出せるのにそのほかのツボは取り出せないってどういうシチュエーションなのかしらって相談してた。」

「そういう別世界の話をするのはやめよーね。…ま、いいや。確かに早苗が言うのも一理あるかもしれないし。それに…」

と言って、言いづらいことだったのか、そのまま口を閉ざしてしまった。不思議そうな顔をするも、早苗は衣玖の方を向き直し、笑顔で提案する。

「…改めて。あんたをあたし達の『チーム』に迎えたいのよ。荒仕事が多いし命の危険は保証できない。けどね、悪いことばっかり、でもないのよ?人の役にも立てるし、何より自由を求める職業なのよ!」

テーブルがあったらバンッと叩きそうな勢いで熱弁。衣玖もその勢いに押されつつ、いきなり言われてもと困ったような顔をした。

そりゃそうだ。いきなり命の保証はない仕事を提案されてはいやります、と答える人などいない。

知っているからこそ、

「…こっちもね。ただで人は養えないからね?」

良心をグサリと突き刺すような一言を穣子が放ってやった。

「わわっあのそのすみませんごめんなさいやりますやりますっ!」

「ちょっとあんた!脅してどーすんのよ!!鬼かっ、悪魔か!!」

「事実じゃんか。それに、こうでも言わないと言葉の泥試合になっちゃうじゃんか。引き込むのなら引き込む。中途半端は良くないよ?」

やれやれ、といった感じで竦める。彼女が正論だとは思っても、やはりやり方が気に食わないのか、穣子の先ほどの発言を無かったことにするかのように再び衣玖に言った。

「あたしとしては、別に無理に引き込む気はないわ。冒険者にならなくても、宿のお手伝いだけで十分だもの。…けど、それじゃあもったいないって思うのよね。普遍的な生活は悪くないのだけれど、いささか退屈なのよね。で、よ。あんたはどうしたいって思う?折角非日常の始まりみたいな事態に巻き込まれたんだし、折角だからいっそ、もっと巻き込まれて、自分の思うがままに生きたいって思わない!?」

相変わらず早苗らしい、支離滅裂な理論だと穣子はため息をつく。自分の意見をただ押しつけるかのような…いや、説得自体そのようなものだ。聞こえはいいが、結局のところ、自分がこうなってほしいという提案を相手に飲ませる。

そして、大抵、

「…やります。」

飲まされてしまうのだった。

 

 

 

というわけで、衣玖さんがチームに加入しましたやったねたえちゃん!!

え、衣玖さんを記憶喪失にしたの?絶対しなかった場合、「私はチームの皆さんに迷惑しかかけませんから」って言って、絶対に入らないから。リーダー入らないと進まないから!!